3.りこちゃんの気持ち

第55話

 その教室を出たとき、あたしはコタくんやひびきくん、それからここみちゃんから少し遅れてしまっていた。


「ここみちゃん?」

 フェスの校内は子どもたちがいっぱいで、あたしはみんなを見失って辺りを見渡した。

「しずくちゃん」

 声がして振り向くと、りこちゃんとねねちゃんがいた。

「りこちゃん……ねねちゃん……」


 りこちゃんは怖い顔をして、あたしを睨んでいた。

「しずくちゃん、ずるい!」

 鋭い声で、りこちゃんは言った。

「ずるいって、何が?」

「しずくちゃんばっかり、虎太朗くんと仲良しでずるい! 運動会のときだって、虎太朗くんにダンスを教えてもらってた。こないだもいっしょに紙飛行機飛ばしていたし。それに、今日は虎太朗くんに二人で回ろって誘われてた……!」

 あれ、見てたんだ、りこちゃん。

 りこちゃんは目にいっぱい涙を溜めながら言った。

 あたしは何も言えなくて黙っていた。

「虎太朗くんに二人で回ろうって言われるだけでも羨ましいのに、あっさり断って。そういうのもムカつくの! ずるいよ!」


 恋愛の好きってよく分からない、と言っていたあたしにも分かった。

 りこちゃん、コタくんが好きなんだ。

 たぶん、ずっと好きだったんだ。

 りこちゃんが、四月にあたしに声をかけてきた理由も分かった気がした。りこちゃんはコタくんと仲良くなりたかったんだ。遠足で同じグループになろうと言ったのも、あたしじゃなくて、コタくんといっしょになりたかったからなんだ。遠足のあの日、あたしに調べ学習を押し付けてどこかに行っちゃったのは、コタくんがひびきくんといなくなっちゃったからなんだ。


 りこちゃんはぼろぼろ泣きながら、「何よ、しずくちゃんなんて。しずくちゃんだけ、虎太朗くんのこと、『コタくん』って呼んでて。それもずるい! ずるいずるいずるい‼」と叫ぶように言った。

 アレク王子からもらったスター・ルビーの指輪をとられたときも同じことを言っていたなあ、と思いながら胸が締め付けられる思いで聞いていた。

「しずくちゃんばっかり、ずるい!」

 りこちゃんはそう言って、あたしの紙袋を引っぱった。

 あたしは紙袋を持ったままだったので、紙袋は破れて中の景品が辺りに飛び散った。


 あたしたちの周りには人だかりが出来ていて、みんな、事の成り行きを見守っていた。紙袋が破れて中身が飛び散ったので、さらに人が集まって来た。「ケンカ?」という声が聞こえてきたけれど、ケンカじゃない、とあたしは思った。

 りこちゃんはあたしの紙袋の破れた一部を持っていて、それを投げつけてきた。でも紙だからあたしにはぶつからず、間にふわっと落ちただけだった。

 あたしが黙って落ちたものを拾おうとしたとき、別の手が伸びて、落ちた景品を拾った。


「……コタくん」

 いつの間にかはぐれていたコタくんがそばにいた。

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