第54話
あたしたちは四人でいろいろなクラスを回った。
景品も紙袋に溜まっていった。みんな、同じ景品を持っているのが嬉しかった。
「そう言えばさ、舞踏会のときね、最後にアレク王子に何て言われたの?」
「あっ!」
あたしは今まですっかり忘れていたことを、思い出した。
あのあと運動会もあったしすぐにフェスもあったし、魔女修業も難しくなってきていて、忘れていたのだ。
……いや、正確には覚えていたけど、考えないようにしていたんだ。
じゃあね、しずく姫が大人になったらね、私と結婚してくれる?
そう、アレク王子は言った。
でも、
返事は今じゃなくていいよ。大人になるまでに、ゆっくり考えておいて。
とも言っていた。
「しずくちゃん?」
「あ、うん」
アレク王子に大人になったら結婚してくれる? と言われたことを、なんだかすぐに言えなかった。
「あのね、ここみちゃん」
あたしは最後、アレク王子が言っていた言葉も思い出していたので、まずそっちを言おうと思った。
「アレク王子ね、大人になっても、ずっとハルメアのことを忘れないでくれると、嬉しいって言っていたの。さみしそうに。……どういう意味だと思う?」
これは、そのときはあまり気にしていなかったけど、あとからすごく気になっていたことだった。
「……みんな、大人になると忘れちゃうのかなあ。それで、忘れると、行けなくなるし見えなくなるのかもしれない」
ここみちゃんは少し考えながら言った。
「そうなの?」
「うん。例えば、わたしのお母さん。ハルメアの話しても、絶対に信じないと思う」
「そう言えば、あたしのお母さんもそうだ。お父さんも」
「しずくちゃんのおばあちゃんはさ、ずっと忘れていなかったんだよね?」
「そうなの。だから、それがふつうかと思っていたけど」
「たぶん、すっごく珍しいんだよ」
「……そうかあ」
「――わたしも、忘れたくないな、ずっと!」
ここみちゃんはにっこりとした。
そのとき後ろから、コタくんとひびきくんがあたしたちを呼ぶ声が聞こえた。
「ここの教室、入ろうよ!」
と言って、入り口のところであたしたちに手を振っていた。あたしとここみちゃんは顔を見合わせて頷き、そこに入ることにする。
ここみちゃんが先に行き、「しずくちゃん、行こう!」とあたしを呼んだ。
「うん!」と言って走るように歩きながら、コタくんやひびきくんも、ハルメアをずっと忘れないでいてくれるといいな、と思った。
美しいハルメア。
緑と花と魔法の国。
あたしは忘れない、ずっと。大人になっても。
――あ。
……どうしよう。
アレク王子に、大人になったら結婚してくれる? と言われたこと、ここみちゃんに言えなかった。
でも、恋愛の好きもよく分からないままなのに……結婚って何だろう?
アレク王子はどうして、大人になったら結婚してくれる? なんて言ったんだろう?
ハルメアの王子さまと結婚したら、あたしはずっとハルメアにいるのかな?
フェスで、それぞれのクラスの出し物を見ながら、あたしはずっとアレク王子のことを考えていた。
それから、あたしと二人で回りたいと言ったコタくんのことも。紙飛行機を飛ばしたとき、コタくんが手をつないできたことも。
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