2.い、いっしょに回る?
第53話
フェス当日。
あたしとここみちゃんは同じ時間に当番に入って、それ以外はいっしょに他のクラスを回ろうねって約束していた。
あたしたちのクラスのお化け屋敷は大好評で、みんな怖くて叫んだりしていた。当番で最後の景品を渡すとき、「怖かった! 楽しかった!」と言ってもらえて、とても嬉しかった。
当番が終わって次の子たちと代わって、あたしとここみちゃんは「じゃあ、回ろう」と言って、紙袋を持った。紙袋は景品を入れるためのものだ。あたしはここみちゃんとお揃いの紙袋を用意していて、紙袋にはモールや折り紙で飾りをつけていた。とてもかわいく出来て、気に入っている。
「じゃあ、行こう!」と教室を出たとき、コタくんがいた。
「コタくん」
「しずく。……い、いっしょに回る?」
なぜかコタくんは顔を真っ赤にして言った。
「うん!」
「え? いいの?」
「うん、いいよ。ここみちゃんもいっしょに回っていい? ここみちゃんと約束してたんだ!」
とあたしは言った。
「え? えと、おれ、しずくと二人で……」
「うん、でもあたし、ここみちゃんと回りたいの!」
あたしがそう言ったとき、ここみちゃんは実に気の毒そうな顔をして、それからコタくんの後ろにいたひびきくんは、お腹を抱えて笑った。
「じゃあ、みんなで回ろうよ。修学旅行のときのメンバーでさ」
とひびきくんが言って、あたしたちは四人で回ることになった。
あたしとここみちゃんが並んで歩くあとを、コタくんとひびきくんはついてきた。ひびきくんはずっと笑っていた。
「……ひびきくん、あんなに笑って。……どうしたんだろう?」
「うーん、コタくんがかわいそうだったんじゃないかな?」
「かわいそう?」
「……うん。コタくんはさ、きっとしずくちゃんと二人で回りたかったんだと思うよ」
「え?」
そう言えば、さっき、「しずくと二人で」って言ってた。
「でも、あたし、ここみちゃんと約束してたし」
「――うん、そこは嬉しい! ちょっとどきどきして聞いてたよ」
「ふふふふふ」
そのとき、紙袋がごそごそした。
見ると、くろがにゃあと顔を出した。
「くろ!」
「ねえねえ、ボクも人型になって、いっしょに回ってもいい?」
「だめだめ。学校だもん。あ、猫の姿でもだめだよ」
あたしがそう言うと、ここみちゃんも「くろくん、学校はまずいと思うよ。フェスは学校に通っている子だけのお祭りで、お父さんやお母さんたちも来ちゃだめだもん。知らない子がいたら、先生に怒られちゃう」と言ってくれた。
「ちぇえ、つまんないなあ」
「そこからそっと見ておいてよ」
「……うん、そうする。でも、いつもみたいにしずくのポケットでお昼寝しているかも」
「ごめんね」
「いいよ。でも、しずく。虎太朗と二人で回ったらだめだから!」
「えっ」
「さっきさ、虎太朗にいいよって言ってたら、ボクすぐ出て行こうと思ったんだよ。でもみんなで回ることになったから、やめといたの!」
……よかった、出てこないで。
きっと大騒ぎになっていたと思う。
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