第50話
「ここみちゃんはアレク王子が好きなの?」
さっきアレク王子と踊ったとき、真っ赤になっていたここみちゃんを思い出してそう言った。
「アレク王子は素敵。でも、これはかっこいいなあって、見て憧れる気持ちかな」
「それと恋愛の好きは違うの?」
「違うと思う。……あのね、しずくちゃん。しずくちゃんにだけ、ないしょで教えてあげる。わたしね、ひびきくんが好きなの」
「えっ!」
「だからね、しずくちゃんもひびきくんが好きだったら、ちょっと困るなあって思って、聞いてみたんだ。だって、しずくちゃんは大切な友だちだから」
「うん、ありがとう。……いつから好きなの?」
「修学旅行辺りからかなあ? ひびきくん、サッカーやっているときとふだんと、全然違うじゃない?」
「うんうん」
「そういうところとか、あとさりげなく優しいところとか」
「うんうん」
「わたしね、毎日学校に行くのが楽しみになったの。ひびきくんと会えるから。ひびきくんの姿を見るだけでも嬉しいし、お話出来たら本当に嬉しいんだ」
ここみちゃんはそう言ってにっこり笑った。その姿は、まるで春に一番先に咲く花のようにかわいかった。
「じゃあ、さっきいっしょに踊っていたとき、どきどきした?」
「うん、した! ……あのね、それからね、ひびきくんがしずくちゃんと踊らなくてよかったなって思っちゃった。ごめんね」
と言って、ここみちゃんはぺろっと舌を出した。
「ううん、謝らなくてもいいよ」
「あのね、だからね、コタくんがね、くろくんにつっかかって行ったり、アレク王子と仲良くするしずくちゃんを見て叫ぶ気持ちが、わたしにはよく分かるんだ」
「そうなんだ……」
「うん。でも、くろくんもしずくちゃんのこと、好きだよねえ、あの態度」
「そうかなあ」
「アレク王子は……きっと、たぶん。しずくちゃんのこと、とても大切に思っているもの」
あたしはアレク王子をそっと見た。
それから、くろを見て、最後にコタくんを見た。
ルチルはあたしたちの会話を聞いていないふりをしていた、と思う。
そして、あたしとここみちゃんの会話がひと段落したとき、「そろそろ帰る時間だね」と言った。
あたしちは魔法が解けて、来たときの恰好になった。
お姫さまの恰好はかわいかったけれど、いつも恰好の方が安心出来た。
「今日はありがとうございました!」とあたしたちが言うと、「どういたしまして。ダンス、とてもよかったよ」とアレク王子が言い、ルチルも「かっこよかったぞ」と言った。
それからルチルはあたしに「また明日から、魔女修業頑張るんだよ」と言った。
「はい!」
「じゃあ、またね」
そろそろお別れだというとき、アレク王子があたしに近づいて、耳元で小さな声で言った。
「しずく姫。しずく姫はずっと魔女修業を続けるのかい?」
「はい!」
「嬉しいな。……じゃあね、しずく姫が大人になったらね、私と結婚してくれる?」
「……え?」
あたしはびっくりして、アレク王子の顔をまじまじと見た。
アレク王子はやっぱり美しく微笑んで、言った。プラチナブロンドの髪がさらさらと揺れた。
「返事は今じゃなくていいよ。大人になるまでに、ゆっくり考えておいて。……ね?」
「……はい」
「しずく姫が大人になっても、ずっとハルメアのことを忘れないでくれると、私はとても嬉しいな」
そう言ったときのアレク王子の顔は、なぜかとてもさみしそうだった。
そしてあたしはそのとき、そんなの、忘れるはずがないじゃない! と疑いもなく思ったのだった。
眩しい光に包まれて、あたしたちはハルメアから井戸工房に戻った。
夕陽が差し込んで、もう家に帰る時間であることを告げていた。
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