4.アレク王子の気持ち

第49話

 くろが「お腹空いたー!」と言い、コタくんもひびきくんも「ハラヘッタ」と言ったので、アレク王子と大魔女ルチルが呪文を唱え、舞踏会の会場は立食パーティのようになった。


「わーい、ごちそう!」

 くろは喜んで食べに行き、もちろんコタくんもひびきくんもモリモリ食べた。

 あたしとここみちゃんは、かわいいドレスを着ている! という意識が強すぎて、コタくんたちみたいにはモリモリ食べることは出来なかった。

 だけど、マカロンも小さな一口ケーキもおいしくて、「おいしいね!」とここみちゃんと言い合った。


「紅茶を淹れたよ」

 ルチルが言って、あたしは紅茶をもらって飲んだ。

「おいしい。ローズヒップティだ」

「わたし、初めて飲んだよ、ローズヒップティ。ちょっとすっぱくておいしいね」

「うん!」

「わたしが作ったんだよ」とルチルは嬉しそうに言った。

「あたしも今度作ってみたいです!」

「じゃあ、次の魔女修業はローズヒップティの作り方講座にしようね」

「はい!」

 しずくノートも随分書き進んで、誕生日にルチルにもらった虹色のノートに書き始めていた。


「しずくちゃん、自分でお茶作ってるんだね」

「うん」

「井戸工房にいろいろあったよね」

「そうなの」

「しずくちゃん、すごいなあ」

「えへへ」

 今日は本当に褒められる日だ!


「ところでさ、しずくちゃん」

 ここみちゃんが少し真剣な顔をして言った。

「なあに?」

「しずくちゃんって、誰が好きなの?」

「え? みんな、大好きだよ」

「んーと、そうじゃなくて、恋愛の好き、の方」

 ここみちゃんはまっすぐにあたしを見た。


 くろとコタくんとひびきくんは、少し離れたところで、争うようにしてごちそうを食べていた。アレク王子はそれを微笑みながら見ていた。そばにいるのは、ルチルだけ。


「あたし……あたしね、よく分からないの。これまで、自分のことでいっぱいいっぱいで」

 あたしは一生懸命考えながら、自分の気持ちをちゃんと伝えようと思った。

 ここみちゃんは大切な友だちだから。

「うん」ってここみちゃんは頷いてくれた。

 ルチルは黙って紅茶を飲んでいた。


「五年生の冬におばあちゃんが死んじゃって。とても悲しくて。あたし、おばあちゃん子だったの。おばあちゃんに育てられたんだ」

「そうだったの……」

「うん。それでね、六年生になったとき、仲良しのくみちゃんとクラスが別れちゃって」

「瀬尾さん?」

「そう。あたし、友だちは多い方じゃないから心細くて。りこちゃんやねねちゃんが話しかけてくれて嬉しかったけど、でも、りこちゃんやねねちゃんとは友だちになれなかったの。そういうことで悩んでばかりいたから、恋愛の好きって、よく分からないんだ」

「うん」


「だけどね、さっき、あたしがアレク王子と踊ったときのコタくんの気持ちを考えてみてって、アレク王子に言われたの。それから、あたしは、あたしとアレク王子は、あたしのおばあちゃんとフェルナン王子みたいな恋愛関係じゃないって、思っていたんだけど、でも……違うのかな? ――分からないの」

「くろくんもアレク王子も、それからもちろん虎太朗くんも、しずくちゃんのこと、好きだよね」

「それは、恋愛の意味なのかなあ」

「……わたしはそうじゃないかなって思うけど、本人に聞いてみないと分からないわよね。特にアレク王子はキラキラ過ぎて、真意が見えないかも」

 ここみちゃんはそう言って笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る