第48話

 アレク王子は最初から王子さまの恰好だったから変わらないけれど、みんながきらきらの衣装になっても、やっぱり一番きらきらしていてかっこよかった。

 大魔女ルチルはいつもの黒ずくめの魔女の衣装だった。


「魔女の衣装はいつもこれなんだよ」

「そうなんですか?」

「ああ」

 ルチルは微笑んで、「しずく、よく似合っているよ」と言った。「しずくはまだ見習い魔女だからね。いろんな衣装を楽しむといい」


 音楽が流れて、あたしたちは自由に踊った。

「踊り方が分からない」と言うあたしに、アレク王子は「だいじょうぶ、いっしょに踊ろう。しずく姫は私に合わせているだけでいいから」と言って、手をとった。そのとき、「あー!」というコタくんの声が聞こえた。


 踊りながらアレク王子はくすくすと笑い、「虎太朗くん、私たちを見て怒っているね」と言った。

「怒っている……のかなあ?」

「さあ、どうだろう? しずくはどう思う?」

「……よく分からない。コタくんは、何か勘違いをしているんだと思う」

「どうして?」

「あたしとアレク王子は、おばあちゃんとフェルナン王子とは違うもの」

「そうなの?」

「え? だって」


 そのとき、曲の切れ目になり、アレク王子との踊りはそこで終わりになった。

 アレク王子は美しく微笑むと「またあとでね、しずく姫」と言って、ここみちゃんの方に向かった。ここみちゃんは真っ赤になりながら、アレク王子の手をとって踊り始めた。


「しずく」

 振り向くとコタくんがいて、あたしの手を取った。

「踊ろうぜ」

「分かるの?」

「適当だろ、こんなもん」


 コタくんは運動神経抜群だから、とても簡単そうに曲に乗って踊り始めた。あたしはコタくんについていくだけだ。

「ねえ、コタくん。その恰好、かっこいいよ」

「ばっ、な、何言ってんだよ」

「……コタくんって、実はかっこいいんだね。小さいころからいっしょにい過ぎて気づかなかったよ」

「ちょっ、ど、どうしたの、しずく」

 コタくんは真っ赤になって言う。

 でも、あたしはコタくんってかっこいいんだなって、思ったんだ。


「あたし、自分が感じたことで、いいなって思ったことはちゃんと伝えようと思って」

「……そうなの?」

「うん! あたし、今日、みんなにいっぱい褒められて嬉しかったから! だから、あたしがいいなって思ったことも、伝えたいの。コタくん、かっこいい!」

「しずく」

 コタくんが手をひっぱって、あたしを引き寄せた。

 コタくん?


「はーい、曲、終わり! 次、ボクの番だよっ。しずく、いっしょに踊ろっ!」

 そこへ、くろが割って入ってきて、あたしの手をとって元気に踊り始めた。

「くろ!」

 コタくんは真っ赤になって言った。

 見ると、ここみちゃんは、次はひびきくんと踊っていた。なんだかとてもお似合いだった。

 そしてなんと、アレク王子はルチルと踊っていた!


「くろ、魔女先生、アレク王子と踊っているよ!」

「うん、さっきはね、ひびきと踊っていたんだよっ」

「えっ。ひびきくんと⁉」

「そうそう、おもしろかったよ。次は虎太朗と踊るんじゃないかな?」

 あたしとくろは、大笑いした。ルチルと踊るコタくんを想像したら、なんだかとてもおもしろかったのだ。

「ねえ、魔女先生、ダンス上手なんだね」

「当たり前だよう! 大魔女ルチルだもん!」

 くろはなぜかドヤ顔で言って、あたしは噴き出してしまった。


 音楽にみんなの笑い声が乗って、部屋中に響き渡っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る