第46話

 そこは舞踏会用の広い部屋だった。


「わあ、きれいな部屋」

 飾り窓も柱もとてもきれいで、シャンデリアがきらきらしていた。

「こんなところで、わたし、ちゃんと出来るかな?」 

 ここみちゃんが心配そうに言った。

「いつも通りで。少しくらい失敗してもだいじょうぶだよ」

 アレク王子はそう、ここみちゃんに笑いかけた。

 ここみちゃんは真っ赤な顔で「はいっ」と言った。


 ここみちゃんだけじゃなくて、実はあたしも緊張していた。何しろダンスは苦手なのだ。いや、運動全般苦手なんだけど。

 緊張で胸をばくばくさせていたら、コタくんが手を握ってきた。

「だいじょぶだよ。一生懸命、練習したから」

「うん」

「それに、しずくは一人じゃない」

「うん……!」


「音楽かけていい? かけるねっ」

 くろが元気よく言って、音楽が始まった。

「練習通りにやろう!」とひびきくんが言って、みんな頷いた。


 クラス全員でやるダンスを四人で踊る。

 でも、毎日練習していたので、かっこよく踊ることが出来た!

 音楽を口ずさみながら、ステップを踏む。

 ダンス、あんなに嫌いだったのに、頑張って練習したから、これだけは出来るようになった。

 曲がもうすぐ終わってしまう。

 なんだかもっと踊っていたいような気持になった。


「すっごくよかったよー! ボクもいっしょに踊りたいっ」

 とくろが言って、アレク王子は「素敵だったよ」と拍手をした。

 あたしたちも拍手をした。

 頑張った!


「嬉しいね!」

 ここみちゃんが笑顔で言う。「うん!」とあたしは言った。

「あのね、今度はね、ボクもいっしょに踊りたいっ」

 くろがしっぽをふりふりさせながら言った。

「一回見ただけで踊れるの?」

 あたしが言うと、くろは「踊れるよっ」と言って、鼻歌をうたいながら、通しで踊ってみせた。


「くろ、すごい……」

 あたしのこの数週間の努力は何だったんだろう?

「しずく姫、誰かと比較してもあんまりいいことはないよ」

 アレク王子があたしの頭をぽんぽんとしながら、言った。

「コタくんも、人には向き不向きがあるって言ってた」

「虎太朗くんは、しずく姫は何が出来るって言っていた?」

「山菜や薬草に詳しいねって。それからお料理出来るねって。家族の夕ごはん作っていて偉いねって言ってくれた」

「虎太朗くんは、しずく姫のこと、本当によく見ているね」

「……うん」

「しずく姫が偉いのはそれだけじゃないよ。魔女修業も毎日頑張っているし、それに六年生になってから、苦手なことも頑張っているよね?」

「うん」


 泳げるように毎日練習したこと。りこちゃんやねねちゃんといっしょにいないって決めたこと。ここみちゃんと友だちになったこと。それから、運動会の練習をしたこと。

 六年生、とても充実している、と思った。

 あたしなりに。

 他の人ならたいしたことないことかもしれないけど、あたしはあたしの精一杯で頑張ったと思う。


「虎太朗くんが言ったみたいに、家のことをやっているのも、本当に偉いよ。しずく姫はよく頑張っている。誰にも負けないくらい、一生懸命やっているよ」

「アレク王子――ありがとう……!」


 なんだか泣けてしまった。

 おばあちゃんがいなくなってしまって、お父さんやお母さんも大変になって。あたしはあたしが出来ることを頑張ろうと思った。だから、夕ごはんを作ったり洗濯物を片付けたり掃除だってしてきた。


 おばあちゃんがいなくて、とてもさみしかった。

 夕ごはんを一人で食べるのは、本当は嫌だった。遠足のお弁当だって、作ってもらいたかった。でも、そんな我が儘は言えないって思って、黙って頑張ってきた。

 だけどやっぱり大変だったし、みんなが羨ましいなって思う気持ちだってあった。


「しずくちゃん」

 ここみちゃんがぎゅって抱き締めてくれた。

 それから、ひびきくんもくろもそばに来てくれて。コタくんは頭を撫でてくれた。


 ありがとう。


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