第44話

 お昼休みや放課後の練習には、あたしたち四人だけじゃなくて、他のクラスメイトも加わった。


「ねえ、あたしたちもいっしょにやっていい?」とか「楽しそうだから、仲間に入れて!」とか言われて、「いいよ!」なんて言っていたら、かなりの大人数になった。

 でももちろん強制じゃなくて、特に放課後はみんないろいろ忙しかったから、出来る人が出来ることだけやる感じだった。

 それでも熱意はクラス全体に伝わって、みんなで一丸となって小学校最後の運動会を素敵なものにしよう! という気持ちで満ちていた。


 それはとても心地のいいものだった。

 小学校の最後のクラスがこのメンバーでよかった、と思った。

 最初はくみちゃんがいっしょじゃなくてさみしくてつらかったけれど、でもここみちゃんと仲良くなって、ひびきくんとも仲良くなって。


「しずく?」

「コタくん」


 ああ、コタくんのおかげだなって思った。素直に。


「どうしたの?」

「うん、コタくん、ありがとうって思って!」

「急にどうしたの? ダンス、上手になったしね」


 うん、でもね、ダンスだけじゃないよ。

 コタくんがあたしにくれたものは。

 言葉にならない、たくさんのもの。


「あたし、運動会、頑張る! ダンス以外も、一生懸命やる!」

「偉いっ!」


 今日は放課後、残ることの出来る人が多い日だった。

 あたしたちの熱意に押されて、先生もいろいろ協力してくれて、音楽をかけて練習出来るスペースもとってくれた。あたしたちのクラスがそうやって練習していたら、他のクラスも頑張ろうってなったらしく、放課後はいろいろな場所で練習する六年生がたくさんいた。そういうのを見るのもなんだかいい感じだった。


 雨の日は、応援の旗をみんなで描いて作った。

 大きな旗。

 絵の具まみれになりながら、笑った。

 団扇を使って応援してもいいじゃない? という意見も出て、みんなそれぞれ応援団扇を作ったりもした。


 とても楽しかった。

 友だちじゃない、と思ったりこちゃんやねねちゃんだけど、彼女たちもちゃんと参加していて、そのことでほっとしたりもした。もし、りこちゃんやねねちゃんが参加していなかったら、少し嫌な気持ちになったと思う。だから、いっしょに練習出来て良かった。相変わらず用事のあるときしか話したりはしないけど、それでいいんだ。



「ボクさ、つまんないんだけど!」

 運動会ももうすぐっていうとき、井戸工房でくろが言った。


 井戸工房にはコタくんがいて、それからここみちゃんとひびきくんもいた。

 疲れをとるお茶があるよってここみちゃんと話していたら、「飲みたい飲みたい!」となり、「僕も飲んでみたいな」とひびきくんも言い、うちに来ることになったのだ。コタくんは当然って顔でついてきていた。サッカーの練習は運動会が終わるまでしばらくお休みで、だからコタくんもひびきくんも、いつもより時間があった。サッカーの練習は小学校のグラウンドを使っていて、運動会前はグラウンドが運動会仕様になっているから使えなくて、だから休みなんだそう。


「え? つまんないって?」

 あたしはフルーツティを入れながら、くろに話しかけた。

「わあ、いい香り!」

 ここみちゃんが言う。

「フルーツティだよ。飲みやすいように、ちょっとはちみつ垂らすね」

「嬉しい!」


「ボクの話、聞いてよう!」

 お茶とお菓子を乗せたテーブルの上に、くろがとんっと降り立った。

「ちょ、お前、危ないだろ!」

 コタくんが言って、くろは「だって、ボク、つまんないんだもん!」と拗ねた。

「どうして?」

「だって最近、しずく、全然遊んでくれないし。楽しそうに学校で何かやっているし。ボク、いっしょに踊りたくても、ダメって言われてるし」


「さすがに運動会のダンスに混じるのはまずいだろ」

 コタくんがお茶をふうふうしながら言う。

「だから、ボクはつまんないんだよう! ボクだって、しずくやここみのダンス、見たい!」

「あ、僕たちはいいんだ」

 ひびきくんが笑いながら言う。

「そうじゃないよう。つまんないんだよう! ――だからね、ハルメアに行こう! それで、ハルメアでダンス、踊って?」

 くろがそう言って、あたしのスター・ルビーが光って。


 あたしたちはハルメアに行った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る