十月の章 運動会、苦手だけど頑張ろう!

1.十月は運動会!

第43話

 修学旅行から戻ると、あっという間に運動会モードになった。六年生は本当に忙しい。

 あたしは運動会が苦手だ。

 走るのも苦手だし、ダンスも苦手だから。

 いつも運動会の時期は憂鬱な気持ちになっていたけれど、今年はなんとなく頑張ってみたいなと思った。


「しずくちゃん、ダンス、得意?」

「もちろん、苦手!」

 あたしは笑いながら、言った。

「しずくちゃん、走るの、速い?」

「もちろん、遅い!」

 ここみちゃんが大笑いして、あたしもいっしょに笑う。

「よかった! わたしもダンス苦手だし走るの、遅いの!」

「でもね、あたし、今年は前向きな気持ちで、うまく出来なくてもいいから、頑張ってみようと思うんだ」

「えらい、しずくちゃん!」

「ここみちゃんもいっしょにやろうよ!」

「うん!」

 あたしたちは手を握り合って、決意を固めた。


 するとそこに、コタくんとひびきくんが来て言った。

「じゃあ、いっしょに練習する?」とひびきくん。

「おれたち、運動は出来るぜ! ――勉強はあんまり好きじゃないけどなっ」

 コタくんはそう言って、ピースサインを作った。

「じゃあねじゃあね、特にダンスを教えて欲しいの。あたし、いつも覚えきれなくて」

「わたしも! いつも、ワンテンポ遅れて怒られてた……!」

 あたしとここみちゃんがそう言って、お昼休みと放課後に練習することになった。



 何しろ、手に集中すると足が分からなくなる。

 ダンスは難しい。


「しずくちゃーん、難しいー」

「ほんと、難しいー!」


 あたしとここみちゃんはしょっちゅう泣きごとを言っていた。

 だけど、コタくんとひびきくんは根気よく教えてくれた。


「いち、にい、さんでくるってするんだよ」

「このタイミングで手を挙げる」

「そうそう、出来た出来た!」

「じゃあ、次はここをやろう」

 正直、どうしてあんなに早く覚えられるんだろう? と不思議だった。


「ねえ、コタくん、どうして覚えられるの?」

「え? なんとなく?」

「ううう」

「人にはさ、向き不向きがあるじゃん?」

「うん」

「しずくはさ、魔女修業頑張っていて、山菜や野草にも詳しくなったじゃん?」

「うん」

「こないだの山菜の炊き込みごはんもおいしかったし、毎日夕ごはん作っているんだろ?」

「うん、お父さんもお母さんも忙しいからね」

「おれ、その方が、ダンス出来るより、もっとずっと偉いと思う」

「……ありがとう、コタくん」


 あたしはなんだか泣きたいような気持になった。

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