第40話

「へえ、そうだったんだね!」

 あたしとコタくんの説明を聞いて、ひびくんはそう言った。

「いいないいなあ! しずくちゃん、羨ましい‼」

 ファンタジー小説が大好きなここみちゃんはそう言って、本気で羨ましがった。

「ここみもハルメアに来ればいいんだよ! しずくといっしょにさ」

 くろはそう言って、ここみちゃんに花を一輪差し出した。


 サンフラワー。

 ハルメアを象徴する、明るく元気な花。サンフラワーは一年中咲き誇っている、と以前アレク王子が教えてくれた。


「いいの? しずくちゃん」

「うん! いっしょに来ようよ!」

「嬉しい! ありがとう、しずくちゃん!」

 ここみちゃんはそう言って、あたしに抱きついてきた。

「ねえ、虎太朗、あっちに行ってみない? 僕、木登りしてみたいんだけど?」

「おう!」

 コタくんとひびきくんは少し向こうの木の方に行き、木登りを始めた。

 あたしはここみちゃんとお花を摘んだり鳥を眺めたり、きれいな葉っぱを拾ったりした。


「時間、だいじょうぶかなあ」

 ここみちゃんが心配そうに言う。

「あのね、ハルメアで長く過ごしても、向こうに戻るとちょっとしか時間が経っていないんだよ」

「そうなの?」

「あのね、実はね、春の遠足でも、あたし、途中でハルメアに来ていたんだよ」

「そうなんだ。――あ! そう言えば、しずくちゃん、あのとき黒猫連れていたよね?」

「うん」

「あのときの黒猫が、くろなんだね!」

「そうなの!」


 あたしは大好きなここみちゃんに本当のことが言えて嬉しかった。

 くろを連れて来たくないわけじゃなくて、くろのことをここみちゃんやひびきくんに隠しているのが、なんだか嫌だったんだなっていうことが分かった。

 よかった。ここみちゃんやひびきくんにくろのことを話せて。それから、ハルメアのことも教えられて。二人ともっともっと、仲良くなれた気がした。


 いつか、くみちゃんにも教えてあげたい。

 湖のところで写真を撮ったとき、くみちゃんが少し遠くにいた。

 くみちゃんはあたしに向かってちょっと笑って、それからポケットからハンカチを取り出して見せてくれた。猫の絵が描いてある、あたしがあげたハンカチだ。あたしはくみちゃんに手を振って、くみちゃんも手を振り返してくれた。

 それだけのことが、とても嬉しかった。

 いつか、くみちゃんともハルメアに来たいな、と思った。


「しずくちゃん、どうしたの?」

 くみちゃんのことを考えていたら、ここみちゃんにそう言われたので、「うん、あたしね、くみちゃんともここに来たいなって考えていたの」と応えた。

「くみちゃん? って、もしかして瀬尾さん?」

「そう! 知っているの?」

「うん。まっすぐの長い髪の、きれいな子でしょう。頭もよくて運動も出来る」

「そうそう」

「瀬尾さん、とても親切なんだよね。わたしが一人でみんなのノートを抱えて歩いていたら、手伝ってくれたの」

「くみちゃん、優しいんだ」

「友だちなの?」

「うん、四年生と五年生、クラスがいっしょで仲良くなったの」

「そうなんだ」

「あのね、きっとここみちゃんとくみちゃんは気が合うと思うの!」

「そう?」

「うん、そう! くみちゃん、いま勉強が忙しいから、受験が終わったらいっしょに遊ぼう!」

「楽しみ!」

 あたしはここみちゃんと顔を見合わせて、笑った。

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