第38話

 くろはその後、あたしたちのグループに加わり(コタくんは嫌な顔をしていたけど)、楽しく観光をした。

 しかもくろは女子にすごく人気で(!)、大勢の人に囲まれながら、いろいろ見て回った。


「くろくん、お菓子、あげる!」

「ありがとう!」

「ねえねえ、あっち、いっしょに見に行かない?」

「うん、でもボク、しずくといっしょにいないと」

「この範囲でいればだいじょうぶだよ」

「じゃあ、しずく、ボクちょっと向こうに行って来るね!」


 くろはにっこり笑って言って、そのくろの笑顔を見た女子たちが「きゃー! かわいいー!」と叫ぶのだった。

 ……くろがこんなに人気あるなんて……。

 あたしは呆然としてその様子を見ていた。


「しずくちゃん?」

 ここみちゃんが心配そうにあたしを見た。

「あ、うん。くろがあんなに人気あるなんて、知らなくて」

「……わたし、分かるなあ」

「そう?」

「うん、だって、くろくん、すっごくかわいいもの。なんかね、猫みたいで!」

 ほんわか笑いながら、真実を言い当てるここみちゃんの言葉に、あたしはくらくらした。


「僕、くろくんが人気あるの、分かるなあ。つい目が行っちゃうんだよね」

 ひびきくんが言った。

 コタくんはすごく不機嫌そうに「意味分かんねえよ!」とぶつぶつと言っていた。

「虎太朗は、以前にくろくんに会ったことがあるの?」

「ああまあ、うん。しずくのうちで」

 コタくんの言葉を聞いて、ひびきくんは意味ありげに笑うと、「虎太朗、頑張ってね!」と言った。

「は? 何をだよ、ひびき!」

 ひびきくんはくすくす笑うと、「僕たちもあっちの方行ってみようよ。景色がすごくきれいだよ。みんなで写真撮ろう!」と言った。


 コタくんは耳を赤くしながら、真っ先に走るようにして行った。

 ひびきくんはくすくす笑いながらコタくんに続き、あたしとここみちゃんも後に続いた。


 湖が広がって、山の緑も美しかった。湖面は太陽の光を受けてきらきらしていた。遊覧船が楽しそうに滑るように湖面を進んでいた。空は青く澄んでいて、白い雲が薄っすらと広がっていて、とても気持ちのいい景色だった。

 湖を見ていたら、ハルメアの湖で泳ぐ練習をしたことを思い出した。


「ねえ、コタくん。泳ぐの教えてくれて、ありがとね」

 コタくんに追いついて、そっと言った。

「ああ、うん」

 コタくんは照れくさそうに頷いた。


「みんなで写真、撮ろうよ!」

 ひびきくんの声がして、あたしたちはそっちに向かった。

 ひびきくんは別のグループの人にシャッターを押すのを頼んでいた。

 あたしたちは湖を背にして立って、笑顔になった。


「撮るよー!」

 シャッターを押す子が言うと、「あ! ボクも入りたい!」という声がして、くろが走って来た。

「お前は来なくていいんだよっ」

 とコタくんが言ったけど、間に合わなかった。

 写真は走って入ってきたくろと変な顔をしているコタくんと、大笑いしているあたしとしずくちゃんとひびきくんが写っていた。


「もう一回、撮る?」

 シャッターを押してくれた子がそう言ったけど、ひびきくんが「これ、みんないい顔しているから、このままでいいよ!」と楽しそうに言った。

 その意見には賛成だ。

 みんな、いい顔している!

 コタくんだけ「えー、撮り直したい」って言っていたけど。


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