九月の章 修学旅行はお座敷列車に乗って

1.新しい友だち

第35話

 またもやあたしの苦手な時期がやってきた。グループ分け。

 六年生の九月の終わりには修学旅行がある。

 お座敷列車に乗って行くのも楽しみだし、旅行自体はとても楽しみなんだけど、学校の行事ではどうしてもグループ行動がつきまとう。


 困ったなあ。

 先生はまた「五人くらいのグループで」と言っていた。

 あたしはため息をついた。

 コタくんは「またいっしょのグループになろう!」と言ってくれたんだけど、あたしはあたしで女の子の友だちを作らなくてはいけない。


 りこちゃんやねねちゃんとは、挨拶もするし用事があれば話すけれど、休み時間におしゃべりするような、そういう関係ではなくなった。「本当の友だちじゃない」と思ってしまえば、逆にとてもすっきりしていて、楽ではあった。

 ただ、ねねちゃんは「指輪のこと、ごめんね」って謝ってくれて、そのことはとても嬉しかった。……りこちゃんは謝ってはくれなかったけれど。


 休み時間、あたしは図書室に行くことが多くなった。

「おれがいるからさ」とコタくんは言ってくれたけど、あたし、コタくんみたいにお昼休み、校庭でサッカーしたりするのはあまり好きじゃなかった。かといって、身体を動かしたいコタくんに室内遊びにつきあってもらうのも変な気がして。

 それで本を読むのが好きなので、図書室に通うことにしたのだ。



 図書室に通うようになって、同じように図書室に通っている同じクラスの女の子がいることが分かった。


 鈴村心実ここみちゃん。


 鈴村さんは、ふわふわの髪をして、眼鏡をかけた女の子だ。クラスの中では、あたしと似た感じで目立ったりせず、静かな存在だ。

 ずっと気になっていて、でも声がかけられなくて。

 だけど、鈴村さんが読んでいた本を見て、思わず声をかけてしまった。


「あたしもその本、好き!」

 鈴村さんは、本から顔を上げてあたしを見た。

「白石さん。白石さんも、ファンタジー好きなの?」

「うん! だいすき!」

「嬉しいなあ。わたしね、このお話、何度も読んだのよ」

「あたしも、何度も読んだ! この王国に行きたいなって思った」

「分かる!」

 そうして、あたしたちはお昼休みごとに話すようになった。


 好きなものがいっしょって、すごい! りこちゃんたちと話すときはいつも、何を話したらいいんだろう? って考えて緊張していたけど、全然緊張しないし、しゃべりたいことがあとからあとから溢れてくる。


「ねえねえ、あたし、鈴村さんのこと、ここみちゃんって呼んでいい?」

「わたしも、しずくちゃんって呼んでいい?」

 あたしたちは顔を見合わせて笑った。

 そして、あたしは勇気を出して言った。

「ねえ、ここみちゃん。……修学旅行のグループ、いっしょになってくれる?」

「うん! あたしもしずくちゃんといっしょがいいなって思ってた」

「他に誰か、約束した人はいないの?」

 ここみちゃんはさみしそうに首を振って、「いないの」と言った。そして、

「このクラス、前からの友だちがあまりいなくて。それに、女の子も、校庭で遊ぶのは好きな子が多いでしょう? わたし、そういうの苦手で。本を読むのが本当に好きなの」

 と言って、持っていた本の表紙を撫でた。


「分かる。あたしも似た感じなの」

「春の遠足のときは、わたしは人数合わせだったから」

「……あたしは……なんか、間違っちゃった、かな? でも、修学旅行、ここみちゃんといっしょだと嬉しい!」

「うん! わたしも、しずくちゃんといっしょがいい。あ、でも、先生、五人くらいって言っていたよね? どうしよう?」

 ここみちゃんは心配そうに言った。心配する気持ちも分かる、と思いながら、

「それはきっとだいじょうぶ」

 とあたしは言った。


「誰かと約束しているの?」

「約束、というか、幼なじみというか。……ここみちゃん、男の子でもだいじょうぶ?」

「もしかして、野嵜のざきくん?」

「うん、そう」

「しずくちゃん、野嵜くんと仲良しだもんね」

「幼なじみだから。でね、コタくんとコタくんの友だちのひびきくんが同じグループになってくれると思うんだ。そうすると四人だから、きっとだいじょうぶだと思うの」

「そうだね、四人グループって、遠足でもあったもんね」

「そうそう。……それで、コタくんとひびきくん、だいじょうぶ?」

「うん、いいよ! 二人とも優しいし」

「そう? ひびきくんは優しいけど、コタくんは……なんか、うるさくない?」

「そんなことないよ、野嵜くん、優しいよ」

「……よかった!」


 そんなわけで、あたしはほっとしたのだった。

 ここみちゃんこそ、おっとりと優しい子だとあたしは思っている。

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