4.しずくの決意
第33話
今回は無事に図書館に行き、あれこれ悩んで千利休について調べることにした。
図書館で何冊か本を借りて、井戸工房に戻りいろいろ調べながら、宿題を終わらせた。
ちょうど宿題が終わったころ、コタくんが井戸工房にやってきた。
「コタくん!」
「しずく、社会の宿題、終わったの?」
「うん」
「誰にしたの?」
「千利休! 茶の湯の人だから」
「お茶、好きだもんね」
「うん。――じゃ、コタくん、ハルメアに行こう! くろもいい?」
コタくんが「うん、行こう!」と言って、くろが「いいよー!」と言ったので、指輪のスター・ルビーを光にかざす。
指輪。
アレク王子からもらった、ハルメアへ行くことが出来る特別な指輪。
それに、もう一つ、だいじな意味が加わった。
コタくんが見つけてきてくれた、大切な指輪。
「ハルメアへ!」
眩しい光に包まれながらあたしは、今までどれだけコタくんにたすけられてきたんだろう? と思って、コタくんの手をぎゅっと握った。そうしたら、コタくんが驚いた顔であたしの顔を見たので、あたしはにっこりと笑ったんだ。
ハルメアのアレク王子のお城に着くと、アレク王子と魔女先生がいて、それからなんとおばあちゃんもいた! おばあちゃんはやっぱりホログラムみたいな姿だったけど。
「おばあちゃん!」
あたしは嬉しくておばあちゃんに駆け寄った。
「しずく――たいへんだったね。でも、よく頑張ったね」
「うん、おばあちゃん」
「今日は、頑張ったご褒美に特別に菊枝を呼んだんだよ」
と言って、ルチルは片目をつぶった。
「ありがとう、魔女先生!」
「どういたしまして。アレク王子の発案だよ」
「ありがとう、アレク王子!」
「どういたしまして。……指輪、見つかってよかったね」
アレク王子はにっこりと微笑んだ。
「コタくんがね、見つけてくれたんだよ」
あたしが言うと、アレク王子はコタくんに「ありがとう、虎太朗くん」と言って、礼儀正しく頭を下げた。
コタくんはなぜかどもりながら、「あ、う、うんまあ」と言って頭をかいた。
既に人型になっていたくろは、「今回はね、虎太朗も頑張ったんだよね!」と言って、珍しくコタくんを褒めて、コタくんの肩を抱いた。
それからみんなで、お茶会をした。
フルーツティとか柿の葉茶とか、普段はあまり見ないお茶があって、あたしは嬉しくなった。コタくんは柿の葉茶を飲んで「うげ」とか言っていたけど。そしてやっぱり牛乳を飲んでいたけれど。
あたしはみんなといろいろな話をした。
指輪がなくなって悲しかった気持ち、ハルメアに行けなくなったらどうしようと思った気持ち、何よりアレク王子からもらったものを失くしてしまった悲しみを聞いてもらったりもした。
「でも、コタくんが見つけてくれてよかったね、しずく」
とおばあちゃんが言った。
「うん!」
「コタくんは昔からしずくに優しくて、しずくのことが大好きだからね」
おばあちゃんのその言葉で、あたしは、この間ルチルが教えてくれた話を思い出した。
「ねえ、おばあちゃん。こないだね、魔女先生から、おばあちゃんとフェルナン王子の話を聞いたの」
「あらあらあら」
「それはね、アレク王子がアクアマリン・キャッツアイのペンダントをくれたときに、この石は縁結びの石でもあるんだよって言って、あたしがその縁結びの意味を間違えたから、おばあちゃんとフェルナン王子の話をしてくれた、というわけなんだけど」
「アクアマリンは海の水を意味していて、海の水は生命の源だからねえ。子宝に恵まれるという意味もあるし、幸せな恋愛っていう意味もあるんだよ」
「うん。……おばあちゃん、あたし、まだ恋愛ってよく分からないの。恋愛の好きって、何か違うんだよね? でも、よく分からないんだ。――学校のことや自分のことでいっぱいいっぱいで」
「うんうん、いいんだよ、しずく。それでいいんだ」
「そうなの? でもおばあちゃんはあたしくらいのときは、恋愛の好きって分かったんだよね」
「……まあねえ。しずくとは状況が違うからねえ。……しかし、懐かしいね」
おばあちゃんはとても優しい顔で微笑んだ。
「おばあちゃん」
「そのときが来たら分かるよ。それまでは、自分が大切だな、と感じるものを大切にするといいよ。それから、しずくのことを大切に思ってくれている人のことをちゃんと分かるようにしなさい」
「……はい、おばあちゃん」
あたしは「そのとき」を待とうと思った。
「いい子だね、しずく」
「……ねえ、おばあちゃん。あたしがね、いつか恋愛の好きっていうのが分かるようになったらね、フェルナン王子のことやおじいちゃんのこと、教えてね」
「いいよ。――おばあちゃんはね、ちゃんと幸せだったよ」
「うん!」
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