第32話

「し、しずく。なんで泣くの?」

「――嬉しくて。コタくんの気持ちが」


 最初にりこちゃんとねねちゃんに無視されたときも、心配してくれた。先生に言おうかって言ってくれた。おれがいるだろって言ってくれた。

 春の遠足では、ひびきくんといっしょのグループに誘ってくれたし、りこちゃんとねねちゃんが同じグループになったときは心配してくれた。りこちゃんとねねちゃんが、あたしに調べ学習を押し付けたことも怒ってくれた。

 泳ぎの練習もいっしょにやってくれた。コタくん、サッカーと習いごとで忙しいのに、あたしのために時間を作ってくれた。そして今度は、指輪を探して、しかも見つけてくれた。


「コタくん、ほんとうにありがとう」

「見つかってよかったよ!」

「指輪のことだけじゃなくて。……いつもたすけてくれて、ありがとう。いつも、あたしのためにたくさんのことをしてくれて、ほんとうにありがとう。あたし、コタくんと幼なじみでよかった」

「しずく……」


「あたし、分かったよ、コタくん。りこちゃんやねねちゃんは友だちじゃない。――ううん、ほんとうはずっと前から分かっていたんだ。だけと、認めたくなくて。一人になりたくなくて。でも、もういいよ。あたし、強くなる! 一人でも、平気って思って頑張る!」

「しずく、おれがいるよ」

「ありがとう! コタくんいるから、女の子の友だちいなくてもだいじょうぶ!」

「ああ」


 コタくんはあたしの目をじっと見たので、あたしもコタくんの目をじっと見た。

 コタくんの目の強さが、あたしにも宿ればいいのに、と思った。


 強くなりたい。


 すると、にゃあってくろが足下にすり寄ってきた。

「くろ」

「しずく、指輪、見つかったの?」

「うん! コタくんが探してくれたの! ひびきくんといっしょに」

「よかったね、しずく」

「うん!」

「虎太朗もたまには役に立つね!」


 くろがふふんというふうに言った。でも、いつもほど、棘はない。

 コタくんもケンカをふっかけずに「まあな」と言って、笑っただけだった。


「あ! ねえ、コタくん、今日、夕方、時間ある?」

「サッカーは昼過ぎまでだから、時間あるよ」

「よかった! あのね、今日いっしょにハルメアに行かない? あたし、指輪のこと、アレク王子にも魔女先生にも話したくて。コタくんもいっしょに行って欲しいの」

「いいよ」

「よかった! じゃあ、サッカー終わったら、井戸工房に来てね。あたし、今日こそ図書館に行って、それから社会の宿題やろうと思うの」

「分かった。――図書館行くの?」

「うん!」

「じゃあ、また、いっしょに行く?」

「いいの?」

「いいよ。昨日みたいな感じで、いっしょに行こう!」

「ありがとう、コタくん!」


 あたしはコタくんと出かける時間を決めて、「じゃあ、あとでね」と玄関を閉めた。


「しずく、本当によかったね」

 くろがすり寄って来て、あたしはくろを抱っこした。

「うん! よかった!」

「今日はハルメアに行けるね」

「嬉しい! あ、でもその前に、今日こそ社会の宿題を終わらせなくちゃ。図書館に行く準備をしよう」

「ボク、また鞄にひそんで行くね!」


 あたしはとても明るい気持ちで、図書館へ行く準備をした。

 なかなか進まない宿題でさえ、なんだか楽しみである気がした。

 今日、ハルメアへコタくんといっしょに行けることも、気分が上向きになる大きな要因だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る