3.コタくん、ありがとう!

第31話

 次の日は、珍しく朝寝坊してしまった。


 朝起きたら、お父さんもお母さんも会社に行ったあとで、ホワイドボードに


 しずく、おはよう。よく眠っているから起こさずに行くね。

 昨日は夕ごはん、ありがとう。おいしかったよ。

 朝ごはんは準備してあるから食べてね。


 と書いてあった。


 テーブルを見ると、お皿にラップがしてあって、目玉焼きとサラダとベーコンが乗っていた。コンロのお鍋にはお味噌汁が入っていたので温めて、それから炊飯器からごはんをよそった。

「くろも食べる?」

「食べる!」


 あたしはくろといっしょに、ゆっくりごはんを食べた。

 くろがいてよかったな、と思った。おばあちゃんがいない夏休みは、くろがいなかったらとてもさみしかったに違いない。

「くろ、いっしょにいてくれて、ありがとう」

「うん!」


 朝ごはんを食べ終わると、チャイムがなった。

 出てみると、コタくんだった。

「コタくん、おはよう」

「おはよう、しずく。――はい」

 コタくんはあたしの手に何かを乗せた。――指輪だ! スター・ルビ―の!


「コタくん、これ、見つけてくれたの? どうやって?」

「あれから、山口と木村に話を聞きに行ったんだ、ひびきといっしょにさ」

「あんな遅い時間に?」

「うん、まあサッカーやってると遅くなることから、あれくらいの時間ならだいじょうぶなんだ」

「それで? あたしがりこちゃんに聞いたときは教えてもらえなかったのよ」

「おれもだよ。山口には教えてもらえなかった。だから、木村のとこに行ったんだ」

「あたし、ねねちゃんち、知らなくて」

「おれもだよ! だから、サッカーのみんなに聞いたんだ。それで教えてもらって行ったんだよ」

「ねねちゃんは教えてくれたの?」

「最初はなかなか言わなかったけどな。……木村、しずくにごめんって伝えてって言ってた」

「え? ねねちゃんが?」

「ああ」


 不思議な気分だった。ねねちゃんはりこちゃんといつもいっしょで、りこちゃんと同じ気持ちかと思っていたけど、実は違うのかもしれない。


「それで、コタくん、一人で探してくれたの? あたしもいっしょに探したのに」

「……しずくはもう充分探していたからさ」

「でも」

「いいんだよ、おれ一人だけじゃなくて、ひびきもいっしょに探してくれたし。……しずくのために見つけたかったんだ、おれが」

「ありがとう、大変だったでしょう?」

「いや、場所が分かっていただけ、まだましだった」

「どこ?」

「学校の、みかんの木の近くの花壇のところ」

 みかんの木は、みんなが待ち合わせにしている、大きな優しい木だ。


「コタくん、ほんとうにありがとう!」

「いやあ、昨日はさ、暗くて見えなくて、学校にはこっそり入ったりしていたから、探すの諦めて、今日の朝早起きして探しに行ったんだよ」

「ひびきくんと?」

「そう! サッカーの練習するとき、早起きしているから、早起きも平気なんだ。でさ、練習がてら学校まで走って行って。で、門には鍵かかっていたから」

「よじ登って?」

「そうそう」

「ふふふ」


 あたしは胸がいっぱいになって、涙が出てきた。指輪をぎゅっと握り締めたまま。

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