第30話
あたしは井戸工房で、くみちゃんにLINEをした。
返事はない。
くみちゃん、勉強が忙しいって言っていたもんな。
でも、今日は返事がどうしても欲しかったから、なんだかとてもさみしくなってしまった。
……りこちゃんやねねちゃんとはLINEの交換をしなかったな、と思う。
みんな、五年生くらいにはもうスマホを持っていた。習いごとをしている子はほぼ全員持っていた。あたしは、習いごとはしていなかったけれど、お父さんもお母さんも忙しかったので、スマホを持たせてもらっていた。
だけど、あまり使っていなかった。家族との連絡の他は、くみちゃんとしかやりとりをしていなかった。コタくんとは直接会っていたし、そもそもスマホには制限がかかっていて、連絡手段以外はほとんど使えなかったのだ。
クラスのLINEグループにもうまく入ることが出来なかった。
六年生になってりこちゃんやねねちゃんと仲良くなった当初は、LINEやりたいなと思っていた。でも、「またあとでね」みたいに言われることが続いて、結局LINEの交換はしないままだった。
今にして思えば、あたしは仲良くなったと思っていたけれど、りこちゃんやねねちゃんからしてみたら、全然仲良くなんてなかったんだ。
あたしはなかなか既読がつかないLINEをじっと見た。
くろはあたしにすりよって、頬をぺろっとなめたりして、あたしを慰めてくれた。
「くろ……」
あたしはくろをぎゅっと抱き締めた。
そのとき、がたっと音がして井戸工房の扉が開いた。
「コタくん」
「しずく。……どうした? 泣いているのか? 何かあったの?」
「コタくん」
コタくんの顔を見たら、また涙が出てきた。
「コタくん、指輪、りこちゃんにとられて捨てられちゃった」
「え⁉」
「あたし、もうハルメアに行けない」
あたしはくろをぎゅっと抱き締めてぼろぼろと泣いた。
「しずく、泣かないで。明日またいっしょに探そう?」
くろはそう言って、あたしの涙をなめた。
「……しずく、どういう状況だったか、おれに教えてくれる?」
コタくんが真剣な顔をして言ったので、あたしは涙を拭いて、図書館の前での出来事を話した。
話を聞き終わったコタくんは言った。
「しずく、心配するな。おれが探してやる」
「だけど、一生懸命探したけど、なかったもん」
「……だいじょうぶ。おれ、探すから」
「コタくん」
「今日はさ、もう家に帰って寝なよ。疲れただろう?」
「……うん」
確かに、指輪を探しながら歩いたので、とても疲れていた。その前に、りこちゃんちを探すためにも歩いていたし。
「しずく、虎太朗もああ言っているから、眠ろう? ボク、ハルメアに行ってアレク王子に相談してきてもいいよ」
「……うん、ありがとうくろ」
今日は、コタくんとくろはケンカすることなく、ふたりしてあたしのことを心配してくれて、そのことがとても嬉しくて、また涙がじわっと出てしまった。
「しずく、ごはん食べてゆっくり眠って」
「うん、ありがとうコタくん」
くろをだっこしたあたしの頭をコタくんはぽんぽんって撫でた。
いつもなら、その行動にくろとコタくんはケンカになるのだけど、くろはあたしの手をぺろっとなめただけだった。
あたしは家に行き、簡単な夕ごはんを作って食べて、お風呂に入ってすぐ眠った。
お父さんとお母さんは仕事でまだ帰って来ていないので、ホワイトボードにメモを残しておいた。
くろといっしょにお布団にもぐりこむと、疲れが急速に全身を巡って、あたしはすぐに眠ってしまった。
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