2.指輪の行方
第29話
あたしはしばらく泣いていたけれど、意を決してりこちゃんちに行ってみることにした。
りこちゃんちに行ったことはなかったけれど、おしゃべりの中でだいたいの場所が分かっていたので、探すことにしたのだ。
山口璃子。
山口さんちを探せばいい。
あたしはりこちゃんが話していた内容を思い出しながら、一生懸命探した。くろもいっしょに探してくれた。
「なかなか見つからないね」
「うん、でも絶対に見つけよう!」
「……ありがと、くろ」
あたしはまたこぼれてきそうになった涙をぐっと堪えた。
あたしとくろは、さんざん歩き回った。
「少し休もうか」とあたしが言ったとき、「自転車!」とくろが言った。
「さっきの自転車だよ、これ!」
その自転車が停まっている家の表札を見ると「山口」とあった。
ここだ!
自転車もあって、自動車もある。
きっと家にいるに違いない。
あたしはインターフォンを見た。
「しずく?」
「うん、ちょっと緊張して」
でも、りこちゃんに指輪を返してもらわないといけない。どうしても。
あたしは意を決して、インターフォンを押した。
「はい、どちらさま?」
りこちゃんのお母さんらしき人が出た。
「あの、あたし、同じクラスの白石雫と言います。りこちゃん、いますか?」
「璃子のお友だちね! ちょっと待っててね!」
りこちゃんのお母さんは明るくそう言った。
玄関の前でしばらく待っていると、扉ががちゃりと開いてりこちゃんが出て来た。
「りこちゃん」
「何よ」
「指輪、返して」
「……捨てちゃったわよ」
「え!」
「捨てちゃったわよ! 何よ、あんなの」
「どこに捨てたの⁉」
「知らない」
「ねえ、探すから、教えて。どこに捨てたの?」
「忘れた!」
りこちゃんはそう言うと、「もういいでしょ!」と言って、家に入ってしまった。
「りこちゃん、待って!」
りこちゃんはばたんと扉を閉じて、出て来てはくれなかった。
「くろ、どうしよう?」
「ここからさ、図書館までの道を探してみようよ」
「……うん、そうしてみる」
あたしはくろと、指輪を探しながら図書館まで行った。
でも、指輪はなかった。
もう一度、図書館からりこちゃんちまで行ったけど、やはり見つからなかった。
陽が次第に傾き、どんどん暗くなっていった。
「しずく、暗いと探せないから、いったん帰ろう?」
「……うん」
あたしは暗い気持ちで家に向かった。
指輪。
アレク王子にもらった、ハルメアに行くためのスター・ルビーがついた指輪。
あたしの目に、涙が滲んだ。
「しずく、また明日もいっしょに探そうよ。ボク、頑張るよ」
「ありがとう、くろ」
あたしはまず井戸工房に行った。
家よりも井戸工房の方が落ち着いたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます