第26話

「菊枝とフェルナン王子の恋は成就しなかった。そして菊枝にもフェルナン王子にも、また別の縁が結ばれた。だけど、菊枝とフェルナン王子の間に縁は途切れなかったんだよ。分かるかい、しずく」


「どういうこと? 分かりません。……好き同士なのに、どうして結婚しなかったんだろう?」

「菊枝は幸せそうだっただろう?」

「うん、おじいちゃんと仲良しだったよ」

「フェルナン王子も、菊枝と違う女性と結婚したけど、でも幸せだったと思うよ」

「結婚出来なかったのに?」

「いろいろあるさ。だからね、しずく。いつでもそのときの自分の気持ちを大切にしなさい。そして、自分を大切に思ってくれる人のことも、大切にするといい」

「はい」


「長く生きていると、本当にいろいろなことがあるさ。……菊枝の孫に会える日が来るだなんて、思ってもみなかったよ。しずくが、菊枝のスター・ルビーの力でハルメアに来たことが、そして魔女修業をしようと思ったことが、菊枝とフェルナン王子の縁が切れなかった証明じゃないかい? 菊枝とフェルナン王子は互いに好きで、気持ちは繋がっていた。縁は結ばれていた。だけど、いろいろな事情で添い遂げられなかった。それでも縁は少し意味を変えても繫がっていたんだ。わたしは、菊枝とフェルナン王子の結びつきの強さに驚かされるね」

 ルチルはそう言って、嬉しそうに笑った。


「おばあちゃん……」

 あたしはおばあちゃんまた会いたいと強く思った。

 ルチルはあたしの思いを見透かしたみたいに言った。

「菊枝にはまた会えるさ。しずくが魔女修業をもっと進めたら。……それにしても、しずくとアレク王子は菊枝とフェルナン王子みたいだよ」


 すると、ずっと黙って、ごちそうを食べながらも話を聞いていたコタくんが会話に加わってきた。

「し、しずくにはおれがいるからな! しずくのおばあちゃんとは違うぞ!」

 くろがすかさず言った。

「でも、毎日はいっしょにいられないくせにー! しずくと毎日ずっといっしょにいるのはボクだよ! それから、しずくが泳げるようになったのは、アレク王子のおかげじゃない?」

 くろはいたずらっぽく笑う。


「だけど、最初はちゃんと教えたし、教えられる日はちゃんと教えたぞ!」

「またまたー!」

 コタくんとくろはまた言い合いを始めた。

「くろ、コタくんはとても一生懸命教えてくれたよ? いじめないで?」

「しずくがそう言うなら」

 くろはちょっとだけしゅんとして、でもすぐに目を輝かせて「だけど、ボクはいつもしずくといっしょにいるよ!」と言った。

「うん、ありがと、くろ!」

 あたしはくろのもふもふの猫耳を撫でながら言った。


 アレク王子はそんなあたしたちを見て、嬉しそうに笑っていた。

 あたしはルチルの話を聞いたばかりだったので、アレク王子の顔を見ると、すごくどきどきしてしまった。


 あたしの縁は誰に繋がっているのだろうか。

 まだよく分からない。毎日のことでいっぱいいっぱいで。

 だから今は、違う意味の縁でいい。


 ハルメアと縁が出来て魔女修業を始めたし、それに勇気をたくさんもらった。あたし、泳げるようになった! 

 ルチルの言う縁のことは、もっとゆっくり考えよう。


 あたしの少し早い誕生日パーティは、明るい笑い声に満ちていて、あたしのこころはきらきらしたもので満たされたのだった。


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