4.おばあちゃんの昔話

第25話

 おばあちゃんは十歳のときにハルメアに行った。

 全く偶然に。

 迷いながらお城に辿り着き、アレク王子のおじいさまのフェルナン・シャリエ王子と出会った。


 しばらくお城に滞在し、おばあちゃんはすっかりハルメアが好きになってしまった。

 そして、おばあちゃんはフェルナン王子ととても仲良くなったんだって。



「これが、さっきアレク王子が言っていた縁だよ、しずく。菊枝とフェルナン王子の縁は繋がったんだ。ふたりは惹かれ合った。とても強く」



 フェルナン王子はおばあちゃんにスター・ルビーのペンダントをあげた。おばあちゃんがいつでもハルメアに来ることが出来るように。おばあちゃんはペンダントをもらって、嬉しかった。ハルメアが大好きになっていたし、フェルナン王子のことも大好きになっていたから。

 それに、そもそも薬草に興味があったおばあちゃんは魔女修業をすることに決めた。そして、毎日大魔女ルチルのところに行ったんだって。



「おばあちゃんも毎日通ったんだ」

「そうだよ。修業というものは、どんなものでも毎日やった方がいいんだ。菊枝は熱心で真面目な生徒だった。そして、魔女修業のあとは、いつもフェルナン王子と語り合っていた」



 その二人の関係はずっと続いた。とても長く。

 通常、魔女修業を始めても、途中で止めてしまう人間が多かったが、おばあちゃんはとにかくずっと頑張ったんだって。

 あたしはおばあちゃんのノートを思い出していた。

 おばあちゃんがずっと書き続けていたノート、何冊もあった。おばあちゃん、ずっと頑張っていたんだなあ、小さいときから。



「しずく、聞いているかい? 菊枝とフェルナン王子は、思い合っていたんだよ」

「それって、好き同士ってこと?」

「そうだ。それがアレク王子の言っていた、『縁を結ぶ』ということだよ。縁にもいろいろあるけどね。――でも、菊枝はフェルナン王子とは添い遂げることはしなかった」

「……どうして?」

「そこの深い理由は聞いていないよ。菊枝も言いたくなかったと思う。ただ、さみしそうに笑っていただけだ」



 おばあちゃんにはどうやら「家の事情」が絡んできたらしい。

 おばあちゃんは長い間ハルメアに通った。見習い魔女となりその後本当の魔女となってからも、ハルメアに通い続けた。

 ハルメアが大好きで。それから、フェルナン王子に会いたくて。


 おばあちゃんの「家の事情」の話を、あたしは知らない。魔女だったことは教えてもらっていたけど、フェルナン王子のことは聞いたことがなかった。

 そもそも、おばあちゃんとおじいちゃんはとても仲良しだった。おじいちゃんが事故で急に亡くなってしまったとき、おばあちゃんはとても悲しそうだった。おじいちゃんのこと、大好きなんだなって思ってた。

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