第24話
次の日、コタくんとハルメアに来た。
「あたしね、けっこう泳げるようになったんだよ!」
うきうきとコタくんに報告するとコタくんはなんとなくおもしろくなさそうに「ほんとうはおれが全部教えたかったのに」とぶつぶつ言っていた。
「だってコタくん、サッカーで忙しいじゃない」
「そうなんだけどさ。――ああ、もう! でも、泳げるようになってよかったよ、しずく」
「うん、学校のテストに間に合った」
「ところで、アレク王子は?」
「あのね、今日はね、部屋で待っているからそこに来てねって言われているの」
「くろは?」
「くろは一足先に行ってるって」
「ふうん?」
あたしとコタくんはアレク王子が待っているよと言った部屋の扉の前に立った。
「開けるよ?」
「うん」
扉を開けると、クラッカーの音とともに声が降って来た。
「お誕生日おめでとう! しずく姫!」
「おめでとう! しずく!」
「アレク王子、くろ!」
「少し早いけど、虎太朗くんがいっしょに来られるときがいいと思って」
とアレク王子が言った。
あたしの誕生日は七月二十日。誕生日にはまだ一週間くらい早かった。
部屋はたくさんの花で飾られていて、とてもかわいかった。そして、おいしそうなお料理も大きなテーブルにいっぱいあった。
「あ、魔女先生!」
ルチルもいて、あたしは嬉しくなって駆け寄った。
「しずく、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます、魔女先生!」
「しずくは魔女修業も、それから泳ぎの練習もすごく頑張ったからな。ご褒美だね」
ルチルがにっこりと言ったので、あたしはとても嬉しくなった。
「しずく、しずくー! これ、ボクからのプレゼントだよ!」
くろはそう言って、花束をくれた。色とりどりのきれいな花束だった。
「うわあ、きれい! ありがとう、くろ!」
「うん! あのね、湖の周りに花がたくさん咲いていたでしょう。ボク、しずくが泳ぎを頑張った記念に、あそこの花を摘んで花束にしたんだ」
「嬉しい!」
あたしは花束をぎゅっとした。
「ボクが選んだ花なんだよ」
「うん、それも嬉しい!」
「えへへ」
ルチルはあたしに四角い包みを差し出した。
「しずくノートもかなり書き進んだから、次のノートだよ」
「ありがとうございます! 開けていいですか?」
「どうぞ」
包みを開けると、虹色の表紙の、少し分厚いノートが出てきた。
その虹色の表紙はとてもきれいできらきらしていて、角度によっていろいろな色に見える不思議な色をしていた。
「すごい、きれい……!」
「これからも頑張って魔女修業するんだぞ」
「はいっ」
あたしは見たことのないきれいなノートが嬉しくて、何度も触った。中の紙は、虹の七色の薄い色で、ノートを閉じて横から見ると七色に色分けされていて、そのことも嬉しかった。罫線のないノートは、自由な心で書くことが出来そうだとも思った。魔女修業、頑張ろう!
「しずく姫、私からはこれを」
アレク王子は小さな包みをあたしに渡した。
包みを開けると、きれいな丸い石のペンダントが入っていた。
「わあ……」
石は、淡い水色で、見る角度によっては無色にも水色にも見える、不思議な石だった。そして猫の目みたいな模様の輝きがあった。
「しずく姫の誕生日の宝石だよ。アクアマリン・キャッツアイっていう石なんだ。『アクアマリン』はラテン語で『海の水』のこと。ちょっと違うけど、泳ぎを頑張っていたしずく姫のお守りにちょうどいいかと思って。石言葉の勇気は、今のしずく姫に必要な言葉だし、幸福の意味もある。それから、永遠の若さと幸せな恋愛も意味するんだ。スター・ルビーの指輪といっしょに、しずく姫の護りとなるよ」
「アレク王子……! ありがとうございます! 大切にします‼」
あたしはさっそくペンダントを首にかけた。
「アレク王子、お誕生日パーティもありがとうございます!」
「しずく姫の笑顔のためだからね」
アレク王子はそう言って笑って、「じゃあ、食べよう!」と言った。
「わーい、ごちそうごちそう!」
くろは待ってました! とばかりにばくばく食べ始めた。
ふとコタくんを見ると、ぶすっとしていた。
「どうしたの、コタくん」
「おれだって、誕生日パーティだって知っていたら、ちゃんとプレゼント持って来たのに」
コタくんは手をぎゅっと握って、悔しそうに言った。
「コタくん、気にしないで」とあたしが言うと、アレク王子が、
「虎太朗くんは向こうで、誕生日当日に、しずく姫と二人のときに渡したらいいんじゃない?」
と意味ありげに言って、笑った。
「なっ!」
コタくんは真っ赤になってうろたえた。
「アクアマリン・キャッツアイは、縁結びの石でもあるんだよ。しずく姫と誰の縁を結ぶんだろうね」
「……! おれ、ごはん食べて来る!」
コタくんは赤い顔のまま、テーブルの方に行った。
縁結び?
「アレク王子、あたし、ハルメアと縁が出来て嬉しいです。勇気もたくさんもらったし」
「そうだね」
アレク王子はくすくす笑った。
「しずく、この場合の縁はそういう意味じゃないよ」
大魔女ルチルが口を挟んだ。
「しずくの祖母の菊枝の話をしよう」
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