第22話

 星の砂の砂地に上がると、小さなテーブルとイスが用意されていた。


「どうぞ、疲れたでしょう」

 アレク王子が椅子を指して言った。

「冷たいお水を用意しておいたよ。レモン水だよ」

「ありがとう!」

 あたしはバスタオルで水気をとって、椅子に座った。

 冷たいレモン水はおいしくて、疲れが吹き飛ぶ気がした。


「おれは、ちょっと泳いでくる!」

 コタくんはレモン水を一気飲みすると、湖に駆けて行った。くろはまだ湖で泳いでいて、コタくんに手を振っていた。コタくんはくろに向かってすごい勢いで泳いで行った。


「コタくん、すごい……!」

「虎太朗くんはサッカーだけじゃなくて、泳ぐのも得意なんだね」

「うん、走るのも速いんだよ!」

「でも、しずく姫も頑張ったよ」

「それは、コタくんが一生懸命教えてくれたから」

「そうだね。でも、しずく姫も一生懸命だったよ」

「あたし、ずっと泳ぐことから逃げていたの。だけど、今年は頑張ってみようと思って」

「偉いね、しずく姫」

 アレク王子は美しく微笑んで、あたしの頭をそっと撫でた。


 そのとき、湖から「あーーーー!」っていうコタくんの声と、くろの笑い声が聞こえてきた。

 コタくんはまたすごい勢いで泳いで岸に辿り着き、あたしとアレク王子のところにずんずんとやってきた。

「しずく、じゃ、続きやるぞ!」

「う、うん」

 あたしが椅子から立ち上がって行こうとすると、アレク王子が言った。

「続きは明日にするといいよ。夏はまだ始まったばかりだから。それに、一日に詰め込み過ぎると疲れてしまうよ」


「ボク、お腹空いたー‼」

 そこにくろが走ってきて、水でたっぷり濡れた身体で、あたしに抱きついてきた。

「ちょっ! おまえ、離れろっ!」

 コタくんはあたしからくろを離そうとして、またくろとケンカになった。

「ともかく、城に戻ってシャワーを浴びて、着替えをしよう。ティータイムはそれからかな?」

 アレク王子が言って、ティータイムに惹かれたくろがコタくんから離れて、「分かった! ティータイム、楽しみ!」と言ったので、あたしたちは笑いながらお城に戻ったのだった。


「ねえねえ、アレク王子。魔法で泳げるようにしてあげたら、簡単じゃない?」

 くろがしっぽをふりふり、アレク王子に言った。

 アレク王子は微笑むと、「それじゃ意味がないんだよ」と言った。

「しずく姫が自分の力で出来た、という実感がないと」

 あたしはおばあちゃんの言葉を思い出していた。


 しずく。よく覚えておいて。魔法はね、しずくに足りないものをほんの少し足してくれるものなの。何かを乗り越えるのも、何かを頑張るのも、しずく自身なんだよ。


 おばあちゃんはそう言った。

 アレク王子が言ったことと、おばあちゃんが言ったことは同じ意味なんだ。

 何かを乗り越えるのも、何かを頑張るのも、あたし自身なんだ。

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