2.ハルメアで特訓だ!

第21話

 ハルメアにつくと、くろはすぐにくるっと回転して、人型になった。

 くろの人型、かわいくて大好き。

 でもコタくんは気に入らないらしく、「ちっ。猫のままでいいんだよ」とか言っている。そしてまた、くろとケンカしていた。


「しずく、湖はこっちだ。案内しよう」

 アレク王子はくすくす笑いながらコタくんとくろのケンカを見て、それからあたしの手を取って歩き出した。

 するとコタくんが慌てて追いかけてきた。


「あ! ちょっと待てよ! おれがしずくに泳ぎを教えるんだよ!」

「遠足のときみたいに、またいなくなるんじゃない?」

 くろが意地悪く言う。でも顔は笑っていた。

「ああもう、それはおれが悪かったよ! ついサッカーに夢中になっちゃって! でも今度はちゃんとしたいんだ」

 コタくんとくろは、ケンカしながらも、あたしとアレク王子のあとをついて来た。


 あたしは気になっていたことをアレク王子に聞いた。

「ねえ、アレク王子。あたし、今日はまだ魔女修業していないの。魔女先生に言わなくていいかしら?」

「その件はちゃんと連絡してあるから、しずくは心配しなくてもだいじょうぶだよ」

「ありがとう!」



 お城から少し行くと、広い湖があった。

 湖面はきらきらと太陽の光を反射していて、それから湖水は周りの緑が映るくらいきれいな水で、とても美しかった。くろが言ったみたいに、辺り一面に花が咲き乱れていて、鳥の声も響いていた。


「……きれい」

 あたしたちは、お城を出る直前、それぞれ着替えをすませていた。

 あたしもコタくんも、水着にTシャツを羽織って、それからビーチサンダルをはいていた。

 少し水に足をつけてみようとして足下を見ると、砂は星の砂みたいな砂だった。

「わ、砂もかわいい!」

「ねえねえ、早く泳ごうよ!」

 くろは既に湖に入って行っていた。


 あたしが湖にそっと入ろうとすると、アレク王子が「急に深くなるところがあるから、こちらで泳ぐ練習した方がいいよ」と言ってくれたので、言われた場所に行く。

「それからね、溺れないように魔法をかけておくね」

 アレク王子が呪文を唱えて、あたしの身体はぽわっと光に包まれた。

「ありがとう!」

「しずく、こっち!」

 コタくんが、アレク王子が指定した水辺のところから湖に入って、あたしを呼んだ。

「ほら、虎太朗くんが呼んでいるよ」

「うん!」

 あたしはビーチサンダルを脱いで、その上にTシャツをおいて、コタくんの方に向かった。バスタオルは近くの木にかけておいた。


 水はひんやりと冷たくて、でも冷たすぎなくて、きもちのいい温度だ。

 あたしはおそるおそる湖に入る。

 そう言えば、湖や川で泳ぐのは初めてだった。海で泳いだことはあるけれど、すごく小さいころの話で、そもそも泳ぐのではなくて浮き輪で浮いていただけなので、なんだかちょっと緊張してしまった。


「しずく、手」

 コタくんが手を差し出したので、その手をつかむ。

「ねえ、コタくん。あたし、湖で泳ぐの、初めて。どきどきする」

「おれも湖は初めてだ」

「ほんと?」

「うん。しずく、バタ足出来る?」

「手、持っていてもらえたら出来ると思う」

「じゃ、まずはバタ足をやろう。顔つけて、バタ足してみて」

「はい!」

 あたしはコタくんの手をつかんで、バタ足をした。


 何度か練習したあと、コタくんが「手に力を入れないように気をつけてみて? 自分で浮く感じ」と言ったので、コタくんの手をつかむんじゃなくて、手をそっと乗せる感じでバタ足をしてみた。

「しずく、いいよ! じゃあ今度はね、ちゃんとそばにいるから、一人でバタ足してごらん?」

「やってみる!」

 さっき、コタくんの手をつかまずにバタ足をやったとき、なんとなく自分の力で前に進んだ気がした。出来るような気がする!

 あたしは手をまっすぐに伸ばして、水に顔をつけてそれからバタ足をした。

 進んでいる!


 あたしは息が続く限りバタ足で進んで、息が切れたところで立ち上がった。

「しずく、いま一人で泳げてたよ!」

「うん! 嬉しい!」

「今度は手の練習をして、息つぎが出来るようになるといいね」

「ありがとうコタくん」


 もう少し練習しようかと思っていたら、「少し休憩したら?」というアレク王子の声が聞こえてきたので、ひとまず陸に上がって休憩することにした。

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