第14話

 里山公園について、あたしは同じグループのコタくんやりこちゃんたちと行動した。グループでの調べ学習もあった。


 だけど、それも短い時間のことだった。

「虎太朗、ひびき! サッカーやろうぜ! あっちの原っぱで」

 岩田くんがサッカーボールを持って、コタくんとひびきくんを誘った。

 サッカーが大好きなコタくんとひびきくんは「やるやる!」と言って、走って行ってしまった。


「ちょっと、虎太朗くん、調べ学習、どうするの⁉」

 りこちゃんがそう言うと、「あとで!」とコタくんは言って、あっという間に行ってしまった。

 あたしはりこちゃんとねねちゃんと取り残された。


「あーあ、つまんない」

 りこちゃんはさも嫌そうにそう言った。そして持っていた、調べ学習の紙が挟んであるボードをあたしに渡した。

「しずくちゃん、あと、やっておいてよ」

「え?」

「ねねちゃん、あたしたち、あっちに行こう?」

 そう言って、りこちゃんとねねちゃんは向こうに行ってしまった。


 あたしはボードを持ったまま、悲しい気持ちになった。

 みんな、友だちとわいわい話して楽しそうだ。

 でも、あたしはあの中に入って行けない。

 涙が出そうだった。


 くみちゃんの姿が遠くに見えた。

 話しかけたかったけれど、遠すぎて話しかけることは出来なかった。

 それに、ちょっと心配なこともあった。

 くみちゃんに送ったLINEの返事が来ないのだ。

 実は、りこちゃんやねねちゃんのことよりも、くみちゃんからの返事がないことの方が、心がちくちくする原因だった。


 あたしは調べ学習の続きをしようと思って、用紙を見た。

 樹木や植物の特徴が書かれていて、その名前を書かなくちゃいけない。里山公園の中をみんなで歩いて探して書くのだ。本来は。


 コタくんとひびきくんはサッカーしに行っちゃったし、りこちゃんとねねちゃんもどこかに行っちゃったし。

 あたし、一人でやるんだ、これ。

 ため息をふうっとついたら、背中がごそっとしてリュックからくろが出てきた。


「しずく、だいじょうぶだよ。ボクがいっしょにやってあげるよ」

「くろ」

「ここさ、里山公園の猫がいるでしょ?」

「うん」

 そうなのだ。

 里山公園には、公園猫がいて、それも人気のポイントだった。

「ボク、公園猫のふりしてしずくといるよ」

「ありがとう、くろ!」

 あたしは急に元気が出て、調べ学習を頑張ってやる気が出てきた。

「ボクさ、樹木や植物のこと詳しいから、力になれるよ!」

「すごい!」


 あたしはくろといっしょに里山公園を散策した。

 くろといっしょに調べ学習をしていると、「きゃー、かわいい、猫ちゃん!」と知らない子たちからも声をかけられた。そのたびにくろは「にゃん」と里山公園の猫のふりをしていて、ちょっと笑ってしまった。


「いいなあ、猫ちゃんと仲良くなったの?」

「えへへ」

 あたしはあいまいに笑った。ほんとうは、くろは、里山公園の猫じゃなくてあたしの使い魔だから。

 女の子たちに撫でられながら、くろは愛想をふりまいていた。

「ねえねえ、三番の答え、分かった?」

「あ、それね、クスノキだよ」

「ありがとう! たすかったあ」

「あのね、あたしはね、六番の答えが分からないの」

「それは分かったよ。クチナシだよ」

「ありがとう!」

 こんな会話もあり、調べ学習は思いの外、はかどった。



「くろ、ありがとう! 調べ学習、終わったよ」

「よかったね、しずく」

「うん!」

「お弁当、食べる?」

 あたしはレジャーシートを広げようとした。

「ねえ、しずく、ハルメアに行かない?」

「え?」

「ハルメアでお弁当、食べようよ! アレク王子からもらった指輪、持っているでしょ?」

「うん」

 あたしは鎖に指輪を通してネックレスにして、首にかけて服の中に入れ、指輪を持ち歩いていた。

「指輪、出して」

 あたしは指輪を出した。


 庭のツツジと同じ、青みがかったピンク色をしたハート型の石、スター・ルビー。

 ここに来たくなったら、その指輪を光に当てて、祈ってごらん。ハルメアに行きたいと。そうしたら、ここに来られるから。

 アレク王子はそう言った。


 あたしは指輪を光に当てた。輝きが星状に伸び、とてもきれいた。

 ハルメアに行きたい!

 あたしは目を閉じて、真剣にそう祈った。

 ハルメアに行きたい‼


 指輪から眩しい光が出て、あたしとくろを包み込んだ。

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