3.遠足中にハルメアへ

第15話

「いらっしゃい、しずく姫」

 アレク王子は美しい笑顔と美しい声で、あたしに言った。

 プラチナブロンドの髪はさらさらで、碧眼は澄んでいて、アレク王子はほんとうに素敵だ。

「アレク王子、こんにちは!」


 あたしとくろは、気づくとアレク王子のお城の中にいた。

「やっと指輪の力を使ってくれたね。待っていたよ」

「えへへ」

 アレク王子に頭を撫でられて、あたしは照れくさくなって笑った。そして、くろはくるんと一回転すると、猫耳としっぽのある人型になった。ふわふわのくせ毛の黒い髪、そして金色の瞳。とってもかわいいの!

「きゃー、くろの人型、久しぶり!」

「ふふふー」

 くろはいたずらっぽくぺろっと舌を出して、笑った。


 あたしとくろを目を細めて見ていたアレク王子は言った。

「それで、しずく姫はランチをいっしょに食べようって思って、ハルメアに来たのかな?」

「分かるの⁉」

「もちろんだよ。この間のテラスにランチの準備がしてあるよ。――それから」

 アレク王子がぱちんと指を鳴らすと、あたしのリュックはいつの間にかアレク王子の手にあった。

「ごめんね、ちょっと開けるね?」

「う、うん」

「ああ、これこれ。しずく姫が作ったサンドイッチ!」

 アレク王子は嬉しそうに、サンドイッチが入った紙袋を取り出した。

「あー、それ、ボクが食べたい!」

 くろはアレク王子にまとわりついた。

「うん、私も食べたいからね、半分ずつだね」

 アレク王子は美しく笑う。


「あ、あのね。おいしくないかもしれないよ?」

 あたしはちょっと心配になって言った。

「だいじょうぶ。しずく姫が一生懸命作ったものだから、おいしくないはずないよ」

「ボクもそう思う!」

「じゃあ、テラスに行こう。ランチタイムだ」

「ありがとう、アレク王子」

「その前に」

 アレク王子は何か呪文を唱えた。

 すると、ぽんっと黄色い花束が現れた。サンフラワーの大きな花束だった!

「わあ、きれい!」

「いつも頑張っているしずく姫にプレゼントだよ。サンフラワーはハルメアを象徴する花なんだよ」

「ありがとう、アレク王子!」

 あたしは腕一杯のサンフラワーの花束を抱えた。

 こんなにたくさんのお花をもらったの、初めて!


 テラスに行くと、様々な料理が並んでいて、あたしのサンドイッチもきれいなお皿に乗せて並べられていた。

「わあ、おいしそう!」

 あたしはそう言って席につこうとしたけれど、向こう側から黒い三角帽子に黒いロングドレスを着た女の人が来たので、足を止めた。

 その女の人は長い黒髪をひっつめて三角帽子の中に入れていた。瞳は緑色で肌はとても白く、赤い唇をしていて、切れ長の目は強い力を持っていた。


「あなたは?」

「わたしは大魔女ルチル。しずく、お前の魔女修業の先生だよ」

「魔女先生! 修業、よろしくお願いします!」

「……ふふ。菊枝と雰囲気が似ているな」

「え! おばあちゃんを知っているんですか⁉」

「菊枝の魔女修業をしたのも、わたしだからな」

「えっ」


 ……この人はいったい、何歳なんだろう?

 二十代くらいにしか見えないけれど、おばあちゃんがわたしより小さいときにこっちに来て魔女修業したのだから、おばあちゃんより年上ってことだよね?

 あたしはじっと大魔女ルチルを見ていると、ルチルはくすっと笑って「魔女の年齢を、人間の年齢といっしょにしちゃいけないよ」と言った。


「じゃあ、まずランチにしよう」

 アレク王子が言って、くろも「ボク、お腹空いちゃったよ~」と言った。

「だって、ボク、今日、頑張ったんだよ。ね? しずく」

「うん、ありがとう、くろ」


 あたしたちは席について、テーブルいっぱいに並べられた食事を食べた。どれもこれもおいしかった。こんなごちそうの中では、あたしのサンドイッチなんて見劣りしちゃうと思ったけれど、アレク王子とくろが一切れずつ真っ先に食べてくれて、しかも「おいしいよ、しずく姫」「むちゃくちゃおいしいよー! また作ってね」と言ってくれたので、すごく嬉しくなった。


 サンフラワーの大きな花束は花瓶に生けてあった。

 こんな大きな花束、持って帰ったら目立っちゃうな、と思っていたら、

「今は遠足の途中だから、今度、井戸工房に持って行けるときに取りに来たらいいよ。それまで枯れない魔法をかけておくから」

 とアレク王子は言って、片目をつぶった。

「うん! そうする! あ、でも一本だけ持って帰りたいな」

 アレク王子は「どうぞ」と言って微笑んだ。


「ところで、しずくは魔女の修業をいつからするの?」

 くろがキッシュを食べながら言った。

「あ、うん。あたし、すぐにでも始めたいです! 魔女先生のご都合はいかがですか?」

 ルチルは飲んでいたコーヒーカップを置くと、言った。

「そうだな。すぐに始めた方がいいな」

「はい!」

「毎日やるといいのだけど。……来れるかい?」

「はい!」


 あたしはわくわくが止められなかった。嬉しい!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る