六月の章 春の遠足。憂鬱なグループ分け
1.憂鬱なグループ分け
第11話
先生が「春の遠足があります!」と言った。
クラスのみんなは「わーい!」って歓声を上げたけど、あたしはびくびくしていた。
だって、遠足っていうことは、絶対にあれがある。あたしの苦手なやつ。
先生はどこに遠足に行くかとか、バスに乗って行くんだよとか、そういう話をしてから、「じゃあ、今からグループ分けをします。好きな子同士でグループに分かれてね。人数は五人くらいで」と言った。
あーあ。
あたしの苦手なやつ。
みんなが席を立って友だちのところへ行ったりする気配を感じながら、あたしは下を向いていた。肩につくくらいのまっすぐの髪がさらさらと流れて、あたしの顔を隠してくれた。
どうしよう?
りこちゃんとねねちゃんとは、相変わらず口を利かないままだった。そして、六年生の初め、りこちゃんやねねちゃんといたので、あたしには他に友だちがいなくて、どのグループに入っていいか分からなかった。
どうしよう、どうしよう。
下を向いて、手をぎゅっと握っていると「しずく!」って声がした。
「コタくん」
あたしは顔を上げて、コタくんの顔を見た。
コタくんは友だちの
「しずく、いっしょのグループになろう! な、いいだろ、ひびき」
「いいよー」
ひびきくんは、サッカーは強いけれど、ふだんはおっとりして優しい感じだった。誘ってもらえてあたしはほっとした。だけど。
「でも、三人だから。先生、五人くらいって言ってたよ」
「そんなの平気だよ! 岩田とか呼ぼうぜ」
コタくんは振り返って岩田くんを呼ぼうとした。
あ、コタくん、あたし、でも。
「虎太朗、だめだよ。白石さん、女の子一人になっちゃうよ。きっと嫌だと思うよ」
あたしが言おうと思っていたことを、ひびきくんが言ってくれた。
「……そうなのか?」
あたしは無言でこくこくと頷いた。
あたし、基本的に男の子は苦手。女の子の方が安心する。だけど、こんなふうに誰とグループになっていいか分からない状態だと、どう行動したらいいのか分からない。
「じゃ、誰がいい?」
コタくんがそう言って、ひびきくんといっしょにあたしをじっと見た。
……それが分からないから困っているのに。
あたしはまた黙って下を向いてしまった。
どうしよう?
そう思ったとき、「しずくちゃん」と呼ばれた。
顔を上げると、りこちゃんとねねちゃんがいた。話しかけられるの、久しぶり。どうしたんだろう? もしかしておばあちゃんの魔法の力?
「しずくちゃん、いっしょのグループになろ?」
りこちゃんが言って、ねねちゃんも「ね? いっしょのグループになろうよ」と言った。
「りこちゃん、ねねちゃん」
あたしは、ずっとしゃべってもらえなくてさみしかったので、嬉しくなった。魔法がうまく作用したのかもしれない、と思った。
「虎太朗くん、あたしたちが入ると五人だからちょうどいいわよ」
りこちゃんはコタくんにそう言った。コタくんはでもちょっと眉根を寄せて「しずくは? しずくの気持ちは?」と言った。
「あたしは……」
「あたしたち、仲良しじゃん! 最近はちょっと、ケンカしていたけど。――ごめんね?」
「あ、うん、あたしもごめんね」
りこちゃんの勢いに押されて、あたしはなんとなくつられて謝ってしまった。
「じゃあ、遠足のグループ、いっしょだね! よろしくね、虎太朗くん、ひびきくん!」
りこちゃんはそう言って、コタくんとひびきくんに向かって笑顔を作った。
「よろしくね。遠足、楽しみだね!」
ねねちゃんも笑顔で言う。
「よろしく!」
ひびきくんも笑顔で言った。
コタくんはなんだか不機嫌な顔をしていて、とても小さな声で「よろしく」と言った。
そんなコタくんのようすにはお構いなしに、りこちゃんはご機嫌で、「グループのメンバー一覧の表、あたしが書いていい?」と言って、先生のところに紙を取りに行った。そしてねねちゃんと笑い合いながら、名前を書いた。
「リーダーとサブリーダーを決めなくちゃいけないみたい」
「誰でもいいよ」
りこちゃんの言葉にコタくんはぶっきらぼうに言った。
「じゃあ、リーダーは虎太朗くんで、サブリーダーはあたしね! それでいい?」
りこちゃんは、あたしたちの顔を見渡した。
ねねちゃんが「いいよいいよー!」と言って、ひびきくんが「うん、いいよ」と言ったので、「じゃあ、そうやって書いておくね!」とねねちゃんが紙に書き込みをした。あたしはりこちゃんの迫力に押されて頷いていた。
コタくんは「え!」と言っていたけど、りこちゃんに「じゃ、よろしくね、虎太朗くん!」と押し切られ、用紙は提出された。
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