第9話

「魔女の修業してあげられなくて、ごめんね。でも、王子さまがしずくを見習い魔女にして、魔女の修業も出来るようにもしてくれるよ。おばあちゃんはそうして魔女になったんだよ」

「そうなの⁉」

 あたしはアレク王子を見た。

 アレク王子はうなずいて、「しずく姫にその気持ちがあれば。……あるんだよね?」と言った。

「うんっ!」


 アレク王子は宙で何かをつかむようにして、それからあたしの左手をとり薬指に指輪をはめた。

「あーーーーーーーー‼」ってコタくんが叫ぶ声が聞こえた。もう、コタくん、うるさいなあ。

 指輪は青みがかったピンク色をした、ハート型の石をあしらったものだった。石はプラチナの土台にはめられていて、ハートは小さなダイヤで縁取られていた。とてもきれいでかわいかった。


「かわいい……」

「それは、ルビーの指輪だよ。ちょっと光に当ててごらん?」

 アレク王子に言われた通りにすると、輝きが星状に伸びた。

 とてもきれいで、ずっと見ていたくなるようなきらめき。


「すごい。……きれい」

「それは、スター・ルビーって言うんだ。ルビーはしずく姫の誕生石だし、きみを護ってもくれるよ? それに、その色、何かに似ていない?」

「庭のツツジと同じ! それからね、『魔法の粉』とそっくりだよ」

「そう。『魔法の粉』は、もともとは宝石だったんだ。菊枝さんの。私の祖父が菊枝さんにあげた、ね」

「そうだったの⁉」

 あたしはびっくりしておばあちゃんを見た。


「そうなんだよ。おばあちゃんはね、しずくよりも小さい、十歳のときに、ここハルメア国に来たんだよ。宝石はね、ペンダントだったの。でも、長い間に力を失って。……それで『魔法の粉』の形にしておいたんだよ」

「今度は、その指輪が、しずく姫をハルメアに導いてくれるよ。そして、それは見習い魔女のしるしでもあるんだよ」とアレク王子が言った。

 そのとき、おばあちゃんの姿が薄くなっていった。


「おばあちゃん!」

「しずく、そろそろお別れだよ。……元気で。ずっと見ているから」

「うん」

「しずくが魔女の修業を頑張れば、また会えるから」

「うん、あたし、頑張る……!」

 おばあちゃんはコタくんに視線を向けて言った。

「コタくん、しずくをよろしくね」

「分かってる! おれがしずくを護る!」

 コタくんはおばあちゃんをまっすぐに見て言った。

 次に、アレク王子とくろにを見て、おばあちゃんは言った。

「アレクサンドル王子も、クロード・ルネも。しずくをよろしくお願いします」

「心配ご無用だよ、菊枝さん」

「ボクはしずくの使い魔になるしっ」


 おばあちゃんは嬉しそうに笑って、「じゃあ、またね」と言って、すうっとそらに吸い込まれるように消えていった。

「おばあちゃん……」

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