4.おばあちゃんと、魔法の指輪と帰還
第8話
ハルメア国は魔法の国。
緑と花に包まれた、平和でやさしい国。
あたしの家には、「おばあちゃんの井戸工房」がある。
あの井戸から出る水は、清浄な特別な水だ、ということだ。ハルメア国とつながった水脈が、あたしの家の庭にはあって、井戸とそしてツツジの木にその清浄な水は溢れ出ているんだそう。
「だから、おばあちゃんはあの井戸をたいせつにしていたのね」
「うん、そうだと思うよ」
「……あたし、ツツジも大好きなの」
「それはきっと、ツツジがあの水で大きくなったからだね。特別なツツジだから」
「もしかして、くろがあのツツジの下にいたのも意味があるの?」
「うん、水脈でつながっているからね。ハルメアと。ルネは小さいころ、間違えて迷い込んでしまったんだ」
あたしは、いま、満開になっている、青みがかったピンク色のツツジの花を思い出した。おばあちゃんは、あのツツジも、とてもたいせつにしていた。
……おばあちゃん。
「菊枝さんに会いたい?」
「うん、会いたい」
「じゃあ、会わせてあげる」
「え?」
アレク王子は右手を上にあげて、さっと空気を撫でるようにした。
すると、そこに。
「おばあちゃん!」
「しずく」
おばあちゃんが現れた。
でも、おばあちゃんはホログラムみたいな感じで、抱きつこうとしたら、通り抜けてしまった。
「おばあちゃん、会いたかった……!」
「しずく。おばあちゃんは、ずっとしずくのこと、見ていたんだよ。くみちゃんとクラスが分かれて、さみしかったね。頑張ったね」
「うん」
「しずくのこと、撫でて抱きしめてあげられないのが残念だよ。……いま、つらい状態だね? それで、魔法のくすりをつくろうとして、ここに来たんだね」
「うん、うん、おばあちゃん」
あたしは涙が溢れて、うまくしゃべることが出来なかった。
アレク王子が、すっと、きれいなまっしろのハンカチをくれたので、それで涙をふいた。
「しずく。魔法のくすりはね、しずくの背中を押してくれるものであって、万能じゃないんだよ。ちゃんと教えてあげられなくてごめんね」
おばあちゃんはそう言うと、あたしのおでこの辺りに手をかざした。すると、おでこの辺りが少しあたたかくなった。
「これでだいじょうぶ。『なかよし魔法のくすり』と同じ効果があるよ」
「ありがとう、おばあちゃん‼」
「しずく。よく覚えておいて。魔法のくすりはね、しずくに足りないものをほんの少し足してくれるものなの。何かを乗り越えるのも、何かを頑張るのも、しずく自身なんだよ」
「うん、おばあちゃん」
「しずくはひとりじゃないから。おばあちゃんはいつも見ているし、それにほら、しずくには、しずくのことを好きでいてくれるひとたちがちゃんといるでしょう?」
あたしはアレク王子を見て、それからくろを見て、最後にコタくんを見た。アレク王子はにっこり笑い、くろはしっぽをふりふりふって、コタくんはうんうんというふうにうなずいていた。
「しずくのお父さんとお母さん、それからくみちゃんもね」
「うん、おばあちゃん」
「忘れないで、しずく。あなたを大好きなひとたちのことを」
「うん……!」
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