第7話

 あたしたちはテラスでお茶をしている。

「室内もいいけど、外の方が気持ちがいいよ」とアレク王子がにこやかに言ったので、美しい庭園の見えるテラスに出たのだ。


「おいしい。カモミールティ! おばあちゃんが作ってくれたのと、同じ味」

 とあたしが言うと、アレク王子は目細めて笑って、「よかった」と言った。あたしはアレク王子と目が合うたびにどきどきした。

「うっげー、まずっ」

 コタくんはカモミールティをひと口飲んで、げほげほした。

「コタくん、だいじょうぶ?」

「ははは。子どもにはまだ早かったかな? きみが飲めるものを用意しよう」

 アレク王子は後ろに控えていたメイドさんに何か合図をした。


「……おれ、子どもじゃねえし」

「子ども、子どもー!」

 くろがコタくんをからかうと、コタくんは「うるせー! お前のが子どものくせにっ」とくろに殴りかかった。

「コタくん!」

「ルネ、やめなさい」

 あたしとアレク王子にとめられて、コタくんとくろはすとんともとの席に座り直した。


「ねえ、くろ?」

「なあに、しずく」

 くろのしっぽがふりふりと動く。

「くろの名前は、クロード・ルネ、なんでしょう?」

「うん!」

「じゃあ、くろじゃなくて、クロード、とか、ルネって呼ばなくちゃいけないよね?」

「いいんだよ! 黒猫のくろ、だし、クロードのくろ、でしょ? ボク、しずくにくろって呼ばれるの、好きだよ?」

「ほんとっ! じゃ、くろって呼ぶねっ」

「うんっ」

 くろはそして、あたしに顔を近づけてきた。


「やめろっ!」

 コタくんがくろを後ろに倒した。

「なんだよう、なめようとしただけだよ」

「そういうの、やめろっ!」

「いいじゃないか、ボクはしずくが好きなんだっ」

 またふたりがケンカを始めようとしたのを、アレク王子が止めた。


「うちのルネがごめんね?」

「ううん、ここに連れてきてくれたし!」

「そうだよ、こいつ、なんとかしろよっ!」とコタくん。

「もう、コタくんは黙っていて。それから、ケンカしないで」

「だって!」

 コタくんが何か言いかけたところに、メイドさんが何かを持って来た。

「虎太朗くん、牛乳だよ。好きでしょう? 喉も乾いているだろうし、どうぞ。サンドイッチやクッキーもあるよ。お腹、空いているでしょう?」とアレク王子が言った。

「ぎゅうにゅうっ」

 くろも目を輝かせて、テーブルに戻る。

 コタくんはしかめっつらをしながら、テーブルに戻り、牛乳を飲んだ。コタくんは牛乳が大好きなんだよね。


「さてと、しずく姫」

「は、はい、アレク王子」

 あたしはアレク王子に見つめられ、どきどきしてしまう。アレク王子、美しすぎるの!

「きみがね、このハルメアに来たのはすぐに分かったんだ。だから、ルネを使いにやらせたんだ。ルネとしずく姫は縁があったからね」

「うん」

 あたしは、幼稚園のころのことを思い出して、うなずいた。


「それにね、しずく姫。きみ自身もこの国に縁があるんだよ」

「え?」

「きみのおばあさま、菊枝さんもずっと昔にここに来たことがあるんだ」

「そうなの? 知らなかった!」

 アレク王子は美しく笑って、「でも、魔女だよって教えてもらっていたでしょう」と言った。

「うん、教えてもらった」

「『魔法の粉』を持っていたでしょう。そして、それを使ってハルメアに来たよね?」

「そうなの!」

「しずく姫、ずっと会いたかったよ」

 アレク王子はあたしの手をとり、手にキスをした。


「おまっ! それやめろっ!」

 コタくんが、また叫ぶ。もう、コタくん、うるさいなあ。

「ははは。虎太朗くんは、しずく姫が好きなんだね?」

「なっ、な、な、何言ってんだよ」

 コタくんは顔が真っ赤だ。

「あのね、アレク王子。コタくんとあたしは幼なじみで、一番の仲良しの友だちなんだよ」

「知っているよ」

 アレク王子はくっくと嬉しそうに笑った。くろはにやにやと笑っている。

 コタくんは相変わらず真っ赤の顔のまま、口をぱくぱくさせていた。


 アレク王子があたしをじっと見て言った。

「ハルメアは魔法の国。しずくは魔女になりたいのかな?」

「なりたいっ」

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