第2話

「しずくっ! だいじょうぶ?」

「……コタくん」

「よかった」

 コタくんはほっとしたようににこっと笑った。


 コタくんは同い年で家がご近所で、幼稚園からいっしょの幼なじみの男の子。野嵜のざき虎太朗こたろうくんだから、コタくんって呼んでいる。


 あたしは起き上がって、周りを見渡した。

「ここ、どこ?」

 あたしたちは森の中にいた。

 美しい緑の樹々。太陽の光がやわらかく射して、草花がほほえんでいた。鳥のさえずりが聞こえ、そこここで動物たちの気配がした。


「どこだろうな。気づいたら、ここにいたんだよ」

 コタくんが差し出した手をつかんで立ち上がる。

「きれいなところ……」

 あたしは森の美しさで胸がいっぱいになった。

「あっ、あれは!」

「どうしたの?」

「ローズマリー!」

「しずくのうちにもあるね」

「うん!」

「あ、ブラックベリーもある」

「へえ」

「ブラックベリーはね、お薬にもなるんだよ」

「そうなんだ」


 あたしは、おばあちゃんに教えてもらった植物を見つけて嬉しくなった。

 まだ他にもないかな、と思って歩き出そうとしたら、コタくんに引き戻された。

「ひとりで行くな。危ないから、手をつないでおこう」

「うん」

 あたしはコタくんが差し出した手を握った。


「ねえ、コタくん。そう言えば、うちに何しに来たの?」

「用がなきゃ、会いに行っちゃいけないのかよ」

「そういうわけじゃないけど」

「……クラスの女子の話を耳にしたから、しずく、だいじょうぶかなって思って」

「あ、うん……」


 あたしは急に気持ちがずんと落ち込んだ。

 おばあちゃんのノートを見ていたら、「なかよし魔法のくすり」っていうのがあったんだ。さっき、あたしはそれを作っていたの。


「山口と木村がしずくのこと、ハブってるんだって?」

「……」

 山口璃子りこちゃんと木村ねねちゃんは、六年生で初めて同じクラスになって、そして新しく友だちになった二人だった。あたしは親友のくみちゃんとクラスが離れてしまって心細かったから、りこちゃんとねねちゃんが声をかけてくれて、すごく嬉しかった。でも、三人で楽しく出来たのは、四月まで。五月に入ったらよそよそしくなって、ゴールデンウィークが終わったら、口を聞いてくれなくなってしまった。


「おれ、先生に言おうか?」

「言わないで」

「でもさ」

「……いいの、言わないで」

「ハブってくるやつなんて、ほっとけよ。他に友だち見つけろよ」

「人気者のコタくんには分らないよ」

「……おれがいるだろ?」

 コタくんはつないだ手をぎゅってした。

「……でも、コタくんは男の子だから」

「そんなの!」


 コタくんがそう言ったとき、木陰から何かが飛び出して、あたしはびっくりした。あんまりびっくりしたので、あたし、コタくんにしがみついた。ぎゅうって。

「し、しずくっ」

 コタくんはなぜか真っ赤になって慌ててた。

 あたしは慌てるコタくんに、さらにぎゅっとしがみついていた。

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