見習い魔女と、王子さまと黒猫と幼なじみのコタくんと
西しまこ
五月の章 小学校は最高学年になって
1.「おばあちゃんの井戸工房」で光に包まれて……⁉
第1話
あたしは、
先月六年生になったばかり。七月の誕生日までは十一歳。
「ふう」
あたしは学校から帰ってすぐ、「おばあちゃんの井戸工房」で薬草を煎じていた。
「しずくにだけ、教えてあげる。おばあちゃんはね、魔女なんだよ」
おばあちゃんは、あたしが十歳のとき、ツツジが咲いている季節にだいじな秘密をそっと教えてくれたんだ。
そのとき、学校でちょっといやなことがあったあたしは、おばあちゃんにだいじな秘密を教えてもらって、元気をもらった。
あたしはおばあちゃん子だ。共働きで忙しい両親代わって、あたしはおばあちゃんに育ててもらった。おばあちゃんはあたしにいろいろなことを教えてくれた。土鍋でごはんを炊く炊き方とかおいしい出汁のとり方とか。お茶の葉の作り方や薬草のことも教えてくれた。
あたしはおばあちゃんが大好きだった。
おばあちゃんはいっしょに暮していたけれど、母屋と同じ敷地の端に、井戸がある小さな工房を持っていて、そこにいることが多かった。おばあちゃんはそこで染め物をしたりお茶を作ったり薬草を煎じたりしていた。あたしは、その「おばあちゃんの井戸工房」で、おばあちゃんが何か作業をするのを見たり、手伝ったりしながら、いろいろお話をするのが大好きだった。
でもおばあちゃんは、今年のツツジを見る前に、あたしが六年生になる前の冬に死んじゃった。急な病気であっけなく。
あたしが十二歳になったら、魔女の修業をしてくれるって言ってくれてたおばあちゃん。
あたしはこぼれた涙を手でぬぐった。
「おばあちゃんの井戸工房」はあたしの秘密基地になった。学校から帰ってから、いつもここで過ごした。宿題をしたり本を読んだり。それからおばあちゃんのノートを見たりした。
ある日、おばあちゃんのノートを見ていたら、いまあたしが欲しい魔法のくすりの作り方が、おばあちゃんのやさしいきれいな字で書いてあった。
いま、あたしはそのくすりを作っている。
「さてと」
あたしは薬草を煎じている鍋を見た。
「おばあちゃんのノートによると、次は『魔法の粉』を入れるんだね。えーと、『魔法の粉』は、と」
あたしは虹色に光るきれいな小瓶のふたをぽんって開けた。
中には、ツツジ色の、青みがかったピンク色のきらきら光る粉が入っていた。
ティースプーンにとって、それを鍋に入れようとしたとき、
「しずく!」
扉が乱暴に入って、誰かが入ってきた。
びっくりしたあたしは「魔法の粉」を鍋にざざっと入れてしまった。
「コタくん!」とあたしが言うのと、鍋から眩しい光が出てあたしとコタくんを包み込むのと、同時だった。
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