世界は自分に厳しすぎる

@kounagosan

第1話 勇者、そして役立たず

 勇者パーティーというのはご存知だろうか?そう、あのカッコいいイケメン勇者とそれを支えるタンク役、魔術師、さらに可愛いヒロインの賢者が組む最強で誰もが憧れる人生勝ち組パーティである。しかしそのパーティに雑魚が一匹紛れ込んでいたら?この物語はそんな無能で役立たずな主人公の一生を描いたお話である。

 「ヤツの攻撃が来る!皆しゃがめ!」

 彼の一言で皆、体を丸め込み対峙している敵人面樹(ユグドラシル)の大振りな振り払いを避ける。

 「振り払い後は隙ができちまうのは知ってんだよ!」

 そう言って魔法を放とうとするのは先程回避司令を出してくれたゴブリン顔のベイド。勇者パーティの攻撃魔術師にして勇者パーティ1の秀才である。

 「我が命令に答えよフェニックス!不死鳥の咆哮(バーニングブレス)!」

 ユグドラシルの隙を刈る強烈な一撃。もちろんユグドラシルは攻撃をモロにくらってしまう。普通なモンスターなら炎の熱で悶え灰となるのだが、相手も大型モンスター。この程度の攻撃じゃ怯みすらしない。 

 「ここは俺様の出番だな!いくぜかかってこい!」

 ユグドラシルに正面切って挑む彼の名前はバド。オールバックにした赤髪と顔と目についた傷、そして何よりも筋肉質過ぎる体が特徴的な勇者パーティーのタンク役。圧倒的に高い体力、守備力とフィジカルで敵の攻撃を受け止め強烈な一撃を食らわせるのが彼の戦い方だ。たった今、挑発を使いユグドラシルの攻撃を彼の体をも覆い尽くす大盾で受け止めようとしているところだ。しかし知力の高いユグドラシルはバドがタンクであるとこを見抜き、攻撃方法を串刺しにして防御を貫通しようと行動した。並のタンクなら絶対に死んでしまうと断言できる技いったところだろう。だが彼は一味違う。後にユグドラシルは後悔することになるだろう。彼が並のタンクとは一線を画していることに。バドは持っていた大盾を捨てそのままユグドラシルの攻撃をなんと盾を使わずに体でを受ける。普通なら心臓を貫かれ死んでいてもおかしくはない。だが彼には最強の常時発動特技(パッシブスキル)不死鳥の息吹がある。不死鳥の息吹はチート級のパッシブスキル。絶対にどんな攻撃を食らっても体力が一度だけ1残り、10秒間の間すべての攻撃を無効化するというものである。これにより死を回避した彼はこう高らかに言葉を発する。

 「特技(スキル)発動!マックスカウンター!」

 彼の十八番スキル「マックスカウンター」。効果は相手の放つ攻撃の威力分自身のステータスを強化するというもの。これにより今まででも相当高かった防御力は最大限上昇しどんな攻撃も寄せ付けない鋼のような守りを手に入れ、攻撃力は上級アタッカーさえも凌ぐ高火力になった。先程、バドが大盾を捨てたのにはこのスキルが関わっており、バドの高い守備力ではユグドラシルの振り払いなどの攻撃では中途半端に体力を削られてしまい最高火力を出せなくなってしまう。そのためユグドラシルの攻撃で一番火力の出る串刺しを誘発し生身で受けたというわけである。

 「サージ!早くいつものバフかけろ!」

 急に名前を呼ばれ驚いたがいつもの通り「軽量化」のスキルの詠唱準備に入る。「軽量化」は俺が使える数少ないスキルであり、効果はかけた相手の素早さを1.05倍し、守備力を0.7倍にするというもの。はっきり言ってほか二人のスキルとは打って変わって地味なものだ。

「っわかった。軽量化!」

言われた通りバドに軽量化を与える。

「遅せぇんだよノロマが…」 

とさらっと毒づかれてしまうがもはや日常茶飯事である。軽量化がかかりほんの少し速くなったバドがユグドラシルの攻撃を無効化しながら距離を詰める。

「くたばりやがれ!!このデカブツが!!」 

 ユグドラシルはバドの大ぶりの斧攻撃をくらい体力の半分以上をごっそり持っていかれてしまう。

「まだ息があるのかこいつは…!」

 先程の攻撃で力を使い果たしたバド。不死鳥の息吹の効果も切れまさに絶体絶命のバドにユグドラシルの反撃の一撃が繰り出される。

「貴方はまだ死ぬには惜しい」

 突如差し込む聖女のような声。水色の髪、銀色の目、まるで踊り子のような艶っぽい体を持ち、老若男女問わず人を惹きつける勇者パーティの賢者担当、アリアスがバドに魔法をかける。

「老兵に安らぎを、そして新たなる英雄の誕生に賛歌を。転送魔法受け継ぎし力(バトンタッチ)」

 瞬間、ユグドラシルの眼前にいたバドの姿は消え、黄金色の髪をなびかせ貫禄ある鎧マントを身に着けし勇者ヘレンズが今仲間のために剣を抜く。

「バド、アリアス、ベイド、サージ。君たちの思いをこの一太刀に乗せ貴様を叩き切る! 」

 一呼吸おいて告げる。彼の必殺を。

「紫電一閃!!」

 彼の攻撃はユグドラシルの体をいとも簡単に一刀両断してみせた。

  勇者パーティはユグドラシルを倒した

        役立たず、そして追放に続く


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