〖英雄〗がインストールされました②
「お前さんは自分に自信がなさすぎるな」
「と、突然なんだよ」
「前々から思っておった。お前さんは自分をまったく信じておらんだろ? それではこの先やってはいけんぞ」
「そ、そうかなぁ」
組合からの帰り道、唐突にライラのお説教タイムが始まった。
自分のことが信じられない。
自信が持てないのは、まさにライラに指摘された通りだったから反論もできない。
彼女はさらに続ける。
「あの男も言っておっただろ? 自分を誇れと!」
「うん、言われた」
ラクテルさんがそう言ってくれた。
ライラやエリカたちとは違う立場で、俺を贔屓目なしに認めてくれる人。
すごく嬉しいし、もっと頑張ろうと思う。
今回の一件が評価され、俺たちのギルドのランキングは一気に上昇した。
「二十七位か……」
またしても急激な上昇だ。
さすがに上げ過ぎじゃないかと言ったら、ラクテルさんは笑いながらこう言ってくれた。
「むしろ足りぬくらいです。街一つ救える時点で、あなたはすでに英雄の域に達している。本来ならば上位入りも考えるべきでしたが、他の者たちがうるさくてですね。まだ様子を見るべきだと……申し訳ない」
なぜかラクテルさんが謝ってくれた。
三十位圏内は上位目前の優良ギルドが名を連ねるランク帯だ。
発足して一か月程度しか経過していないギルドがランクインした事例は、これまでなかったらしい。
つまり、俺たちのギルド、ライブラが史上初の快挙を成し遂げた。
ギルドマスターとして誇らしく思うべきだ。
そう思う気持ちはあるけど、反面、本当によかったのかと不安になる。
ランキングが上がるということは、その影響で下がったギルドも存在する。
当たり前だ。
彼らは、俺たちのことをどう思うだろう?
「気にし過ぎだ。お前さんは神経質だな」
「……よく言われる」
神経質な奴は冒険者に向いていない。
考え過ぎたり、必要な一歩を踏み出せないことで命を落とす者が多いからだ。
「お前さんが考えるべきはそこではないぞ」
「わかってるよ。星食い……本体を倒さないといけないんだろ?」
「そうだ。お前さんらが倒したのは、星食い本体から漏れ出た力の上澄みにすぎん」
「あれで上澄み……」
複数のギルドが総出で応戦し、ようやく討伐できたモンスターの群れ。
そして上空のダンジョンの制御を奪い、落下させた力が、まだほんの一部でしかないというのか?
考えただけで血の気が引く。
けど、俺が手にした英雄の力は、星食いと戦うためのものらしい。
怖気づいてはいられないな。
「まずは本体を探さないとね」
「それは難しくないぞ。おそらく本体は、お前さんらが戦ったダンジョン内にいる」
「そうなの? 根拠は?」
「星食いを初めて発見した場所があそこだ。漏れ出た力だと言っただろう? そうでなくて、星食いはダンジョン内で最初に発生するものだ」
俺はホームへ戻る片手間に、ライラから星食いについて説明を受ける。
星食い、それは世界の外側に発生する異質な存在だと聞いた。
奴らは世界から漏れ出た負の力を源にしている。
力が増幅し、星食いとして大きくなると、奴らは世界を呑み込むために侵略してくる。
そのルートは必ず、ダンジョンを通るのだとライラは言った。
「世界には外殻がある。結界、内と外とを完全に遮断するものだ。その強度は言葉では表せん。いかに星食いが強力でも、外殻に穴を開けて侵入することはできん。だが、ダンジョンだけは違う」
ライラは目を細める。
この世界に存在するダンジョンは全て、こことは別の世界と繋がっている。
遠く離れた異なる世界は見えない道で繋がっていて、ダンジョンは終着点のような場所だった。
世界と世界を繋ぐ道は、強固な外殻ではなく、透過性のある膜で覆われている。
「あくまでイメージだがな。道は通るものを選ぶ。そこに無理やり、星食いは自分の存在をねじ込んで、ダンジョンへと侵入する。ダンジョンに巣食った星食いは、殺戮を繰り返し、恐怖を煽り、力を増していく」
ライラ曰く、そのままダンジョンを完全に呑みこみ、強大な力を得た星食いはダンジョンの外へと進出する。
そうなる前に、俺たちが見つけて倒さないといけない。
「だったら急がないといけないな。明日にでもダンジョンに潜ろう」
「いや、それはやめておけ」
「え……?」
同意すると思ったら、ライラはきっぱりと俺の意見を否定した。
驚いた俺は彼女に尋ねる。
「どうして? 急がないといけないんじゃ」
「行っても無駄だ。今のお前さんでは、星食いには絶対に勝てんからな」
「――!」
絶対と、明確に言い放たれた勝敗予想に唖然とする。
英雄たちの力を借りて、俺も強くなった。
俺は自分に自信がない。
だけど、この手にあるのは偉大な英雄たちの力で、俺の力じゃない。
彼らが成した偉業は、その実力は本物だ。
英雄たちの力を借りれば、どんな困難も乗り越えられる。
そう思っていたからこそ、ライラの言葉がぐさりと突き刺さる。
「それは……俺が弱いから……か?」
「ほら、またそうやって自分を卑下する。よくない癖だぞ」
「でも……」
「そうではない。お前さんが勝てんのは、星食いのもっとも恐ろしい特性故だ」
「特性?」
ライラは改まって口にする。
「星食いは――学習する」
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