〖設立〗がインストールされました⑤
俺はカインツの剣を弾き、がら空きになった腹に蹴りを入れる。
「ぐおっ!」
一撃で吹き飛んだカインツは、訓練場の壁に激突する。
ロゼが叫ぶ。
「リーダー! この……よくもリーダーを……!?」
俺はロゼに視線を向けた。
目と目が合う。
その瞬間、ロゼは戦慄して固まった。
「な、なんなの……そのありえない魔力は……」
彼女は魔法使いだ。
魔法使いは魔力を視覚で捉えることができる。
性質、総量、生成速度、出力……優れた魔法使いほど、魔力から相手の情報を細かく把握できる。
ロゼは戦慄していた。
彼女は若く、優れた才能を持っている。
その才能が全力で、危険信号を発していたのだろう。
「ごめん。十秒って言われてるんだ」
「え――」
瞬間、ロゼの眼前に俺は移動する。
反応できない速度で動き、彼女の意識を刈り取る。
残り五秒。
「この!」
「よくも二人を! 僕たちが相手――」
「恨むならカインツを恨んでくれ」
ミリアは弓を構える前に意識を鎮め、パテオは手にした槍をへし折って吹き飛ばす。
彼らは俺を侮っていた。
昨夜の話をカインツがしていれば、もっと準備をしていたかもしれない。
結果は同じだとしても、もう少し粘れただろう。
「く、くそっ……」
最初に吹き飛んだカインツが立ち上がる。
脳が揺れ、ふらついている。
もはや決着はついていた。
俺はカインツの前に移動する。
「――!」
「終わりだよ、カインツ」
「……なんなんだ。なんでこんな……お前は何もできなかったじゃねーか!」
カインツが叫ぶ。
ふらつきながら、自身の敗北を理解して。
悔しさと怒りを露にしている。
今さら同情なんてしない。
ただ、一つだけ教えておこうと思った。
「気に病むことはないよ。君が戦ったのは俺じゃない。俺の中にいる……どこかの世界で、剣帝と呼ばれた偉大な剣士だ」
俺はカインツに勝利した。
けれど、自分の力で勝てたとは思えなかった。
俺の力は、偉大な英雄たちからの借り物に過ぎない。
凄いのは英雄たちで俺じゃない。
威張るなんて烏滸がましくてできなかった。
いつの日か……この力を、自分の力だと思える日が来るのだろうか。
今はまだわからない。
俺はようやく、スタートラインに立ったばかりなのだから。
「勝負あり、ですね」
「お見事だ! 私の宣言通り十秒だったな!」
こうしてカインツの嘘は暴かれ、俺の真実は証明された。
◇◇◇
翌日。
俺とライラは冒険者組合の支部に訪れ、待合スペースに座っていた。
「おい、あれが例の……」
「ああ、ボスを一人で倒したっていう。しかも仲間に裏切られてどん底からだぜ?」
組合に訪れた冒険者たちの視線が刺さる。
対面のライラはニヤつきながら言う。
「すっかり有名人だな。嬉しいか?」
「……恥ずかしいだけだよ」
模擬戦に勝利したことで、特例としてギルドの設立は認めてもらえた。
けれど条件付きだ。
一か月以内に残り三人見つけること。
それができなければギルドは解散になってしまう。
一応、組合の掲示板に張り紙はしてあるけど……。
「集まるかな……」
「心配するだけ無駄な時間だぞ? ほれ、あの男も手伝ってくれると言っていただろう?」
「ラクテルさんな。それはそうだけどさ」
やっぱり不安だった。
集まるかどうかもだけど、新しいメンバーを上手くまとめることができるのか。
俺が立ち上げた以上、ギルドマスターは自分だ。
自分で決めたこととはいえ、改めて凄いことを始めたと自覚する。
ともかく、人数が集まらないことには何もできない。
今はただ待つしかなかった。
「何日でも待つぞ」
「一か月しかないがな」
「現実をつきつけないでよ……はぁ……」
ため息をこぼす。
そんな俺の下に、足音が三つ。
「あ、あの!」
声をかけられた。
視線の先には、見知らぬ三人の女の子がいた。
一番前に立っている赤い髪の子が、勇気を振り絞るように俺に話しかけてくる。
「レオルスさん、ですよね?」
「え? うん。そうだけど……」
誰だろう?
始めて見る子たちだ。
話しかけてくれた赤い髪に黄色いカチューシャの子、その後ろに二人。
綺麗な黄色いショートで、一瞬美少年に見間違えた中性的な女の子の隣には、引っ込み思案っぽさが溢れる濃い藍色の髪の少女。
三者三様の特徴的な容姿の女の子たちだった。
「張り紙……見ました」
「え?」
張り紙って……まさか。
そうなのか?
「私たちを、レオルスさんのギルドに入れてくれませんか?」
「――!」
俺は驚いて両目を大きく見開く。
ライラは嬉しそうにニヤっと笑みを浮かべていた。
黄色い髪の少女が身を乗り出して言う。
「オレたち昨日の模擬戦みたんだ! すげー格好良かった! 俺もあんな風に強くなりたい!」
「わ、私たちは新人で……役に、た、立てるかわかりませんが、頑張ります」
藍色の髪の少女は見た目通り人見知りっぽいな。
頑張って声をかけてくれた。
何度も目を合わせ、逸らしながら。
そして、赤い髪の……最初に声をかけてくれた彼女は改めて言う。
「お願いします! 私たちを……ギルドに入れてください!」
お願いします!と三人は頭を下げてきた。
まだ俺は驚いている。
驚き過ぎて反応できない俺の肩をライラがつついた。
「ほれ、返事は?」
ようやく我に返る。
俺はライラと目を合わせ、頷く。
「もちろん!」
「本当ですか!」
「やったー!」
「よ、よかったぁ……」
三人ともすごく喜んでくれている。
新人だとか聞こえたけど、俺は気にしない。
こうして自分から声をかけてくれたことが、何より嬉しかった。
「これからよろしくお願いします! えっと、このギルドの名前って決まってるんですか?」
赤い髪の少女が尋ねてくる。
「ん? ああ、決まってるよ」
「昨日の夜、私と二人で考えたからな!」
そう、俺とライラの二人で始まった。
このギルドの名前は、俺たちの今と、未来を象徴する。
「ようこそ、『
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【あとがき】
設立編はこれにて完結となります!
第一部もこれにて半分が終わりました!!
次回をお楽しみに!
できれば評価も頂けると嬉しいです!!
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