15話

 翌日は雨。頭痛を起こしやすい体質の二人にとってはあまり好ましくないコンディション。昼前になって、ようやく利玖が先に目覚めた。

 起きてから、まず換気の為に窓を開けたが、どの方角にも雲が厚く垂れ込めている。時間経過による天気の好転は望めそうにない。

 昨日の夜に封を切ったブランディは、結局、三分の一ほどしか中身を減らせなかった。今は、酸化を防ぐ為にしっかりと蓋を閉めた状態で食器棚の下に保管されている。

 いつか飲み切る事が出来ればそれで良い、と思えた。

 兎に角、雨。それだけで万事気乗りのしない一日の始まりである。

 寝室を出た後、利玖はリビングの真ん中で腰に手を当てて「ようし」と口に出し、自分に活を入れた。

 キッチンに行き、朝食の準備に取りかかる。いくつかの根菜を切り、スーパで買ってきた鶏つくねをスプーンで団子状に丸めて鍋で煮込んだ。

 食欲がなくても、こういう時には、なるべく野菜がたくさん入った食事を取った方が良い。一口でも二口でも食べる事が出来れば、それだけ早く体力も回復する。

 そんな思いで調理をしていた為か、予想以上に具沢山の鍋になったので、利玖はキッチンの壁にもたれて、お玉を持ったまま、うたた寝をしそうになるくらい時間をかけて煮込んだ。

 味見をし、火が通った事を確かめて、史岐を起こしに行く。利玖がいなくなった事で、冷えがひどくなったように感じられたのか、頭まですっぽりと布団に包まった状態で、何がどこにあるのかさっぱりわからなかった。

「おはようございます」

 枕元にかがみ込んで挨拶をする。鉛色の波打ち際を想起させる重々しい溜息が布団の中から返って来た。

「ごはんが出来ましたよ。熱いうちに食べましょう」

「そんな、熱かったら食べられないよ」

 寝言を口にしながら、動力不足のねじ巻き人形みたいな動きで史岐が布団の下から出てくる。ベッドの縁に腰掛け、床に両足を下ろした所で一旦動かなくなったが、利玖が鍋の中身を椀によそって運んでくると、テーブルの前まで移動して来ていた。

「頭が痛い」額に片手を当てて史岐が呟く。

「今日はずっと雨みたいですね」利玖は手早く椀と箸を配膳した。「食べ終わってもまだ具合が悪かったら、薬を飲んで横になりましょう。最後にお腹に入れたのが度数の高いお酒のままでは、体に良くありません」

「そうだね……」

 史岐は頷き、のっそりと箸を手に取った。

 利玖も一緒に食べ始める。野菜が入っているとはいえ、朝から肉料理はヘヴィだったか、と少しの不安があったが、鶏つくねに入った柚子の風味が良い仕事をして、難なく完食する事が出来た。

「美味しいなあ、これ」史岐は、利玖よりも先に食べ終えて、すっかり頬にも血色が戻っている。「お代わりある?」

「あと二人前くらいなら」

「貰ってこよう」史岐は空の椀を持って立ち上がる。「利玖ちゃんは?」

「いえ、わたしはもう十分です」

「じゃあ、ちょっと待ってて。好きな本読んでていいから」史岐は片手を伸ばして、利玖が使い終えた椀と箸を回収した。「ついでにコーヒーも淹れてくる」

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