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「お!まり姉お帰り!!」




派遣元の会社へ行き、家事代行・ベビーシッターサービス事業の部屋に入ると葛西さんがデスクで仕事をしていた。




「戻りました・・・。」




そう返事をしながら、お客様のお宅の鍵を葛西さんへお渡しする。

そして業務日報も。




葛西さんが業務日報を確認しながら今日も不機嫌になってくる・・・。




「夕方頃にも休憩入れろって言ったよな?

俺はこんな働き方許した覚えないぞ!!」




「はい・・・。

でも、そこに休憩を入れると・・・19時までに終わらないので・・・。」




「この客に変に気に入られたな!!

さっき“毎日まり姉に頼みたい”とか電話来たぞ?」




「毎日、ですか・・・?」




「“まり姉は週3以上は出来ない”って伝えておいたからお前は気にすんな!!

あいつの所だけがまり姉の仕事じゃねーからな!!」




「はい・・・ありがとうございます・・・。」




葛西さんにお辞儀をすると、葛西さんは少し心配そうな顔で私を見てきた。




「コミュ障が無理するとろくなことが起きねーからな!!

何かあったらすぐに俺に言えよ!!

客がどんなにお偉いさんでどんなクレーム入れてきたとしても、俺だけは見捨てねーで最後まで守ってやるから!!」




そんなことを言ってくれて・・・。




この人は、最初からこんな言葉を掛けてくれるような人で・・・。




その言葉に胸が温かくなり、自然と笑顔になった。




「私・・・奥様が羨ましいです・・・。

葛西さんのような方とご結婚出来て・・・。」




「俺がすげー苦労して結婚まで出来たんだよ・・・。

真知子はまり姉並にコミュ障だからな・・・。」




葛西さんのお宅で研修をさせて貰い、社会人経験のなかった私にとってこの会社は・・・葛西さんは、私の大切な人・・・。




派遣元の会社を出てから電車に揺られ、家の最寄り駅に到着した。

停止した電車から降りて改札を出て・・・目指したのはドラッグストア。




必要な日用品をカゴに入れていき・・・




そして・・・




辿り着いたコーナー・・・。




辿り着いた、コーナー・・・。




化粧品コーナー・・・。




そこにあるのはキラキラと可愛いメイク用品達・・・。




そのメイク用品達をしばらく眺め・・・




眺めて・・・




いくつか、カゴに入れた・・・。




そして、自宅のマンションへ帰宅をした。

お父さんが働いている会社の社宅。

3LDKの部屋、そのリビングにすぐに入り仏壇へ。




お母さんの仏壇へ。

お線香をあげてから、さっきドラッグストアで購入したメイク用品を仏壇の前に置く。

メイクが大好きだったお母さん・・・。

私が小学校1年生の時に病気で亡くなってしまったお母さん・・・。

私が大きくなったらメイクをしてくれると約束してくれていたお母さん・・・。




仏壇に飾られているお母さんの写真を眺める。

写真の中で笑うお母さんの顔は可愛かった。

とても可愛い顔をしていた。

私の大好きな可愛い顔をしていた。




「可愛いお母さんは、可愛い・・・。」




そう呟きながら今日も写真の中のお母さんに笑い掛けた。




家でも家族の為に料理を作っていく。

家族の身体の為に・・・。

その身体に染み渡るように、料理を作っていく・・・。




お父さんも弟達も妹もまだ帰って来ないので、1人でゆっくりと夜ご飯を食べた。

ゆっくりとよく噛んで、夜ご飯を食べた。




そして・・・




始める・・・。




今日も、始める・・・。




メイクの練習を始める・・・。




お母さんの仏壇の前からさっき置いたメイク用品を取り、お母さんに笑い掛けてから自分の部屋へと向かった。




可愛くなりたい・・・。




私は可愛くなりたい・・・。




だから今日も、メイクを練習する・・・。

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