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“難しいお客様”と派遣元の会社の葛西さんからは言われていた。

最初は、在宅中でなければ部屋に上げたくないと言っていたそうで・・・。

でもいつ家にいられるかが分からないので、早朝か深夜に対応が出来る人を希望していた。




その他にも色々とご希望があったそうで・・・

とても細かくあったそうで・・・。




その中の1つが、“男性”を希望しているというものだった。




でも、派遣元に登録をしている男性ではその他のご希望に添える人がいなかったそう。

その他のご希望に近い人物が私だったそうで。




“お客様と個人的に一切関わらないこと”




“お客様のことを絶対に好きにならないこと”




女である私がこのお客様に派遣される時に葛西さんから注意事項として伝えられた。




こういう私にとっては、それはむしろ嬉しい注意事項だった。




そんな私の前で下半身にタオルを巻いた姿で髪の毛を拭きながら、キッチンで牛乳を一気飲みしているお客様。




「すみません、シャワー浴びてました。

まり姉だと思って大急ぎで出て、ろくに拭かずに迎えに行っちゃいました。」




照れたように笑いながらそんなことを私に言ってくる。




葛西さんが言う通りこの方は“難しいお客様”だった・・・。




「慣れているので、大丈夫です・・・。」




弟が2人いる私にとっては慣れている光景で。

しかも弟の1人とこのお客様の身体はよく似ていて・・・。




それに、私にはそういう経験もある・・・。

こういう私にも彼氏がいるから・・・。

私には・・・彼氏がいて・・・。




でも、“慣れている”・・・。




そんな返事をしてしまい、変な返事になってしまったと今になって気付く・・・。




それにも心臓が止まりそうになっているけれど、お客様は照れたように笑っているだけだった・・・。




「行ってきます、まり姉。」




「行ってらっしゃいませ・・・。」




スーツ姿になったお客様を玄関で見送る。

お客様は嬉しそうな顔で私を見ていて・・・

視線を逸らしてしまいたい気持ちになったけれど、前を向いてお客様を見上げ・・・

それからお辞儀をした。




少ししてから玄関の扉が閉まる音が聞こえ、それから頭をゆっくりと上げる。




「よし・・・、仕事・・・。」




少し呼吸を整えてから洗面所へ向かった。




そして、鏡に映った自分の顔を見る。




黒い髪の毛は後ろの低い位置でお団子にしている。

そこまで厚みのない前髪は目よりも3センチ長い長さまで伸ばしている。




その長い前髪を手に取り・・・




頭の上であとがつきにくいピンで止めた。




そしたら、私の顔がよく見えるようになった・・・。




二重の線がうっすらとあるだけの眠そうな目、

鼻も低めで全体的にのっぺりとした顔。

肌は真っ白で肌荒れはしていない・・・。




でも・・・




ソバカスがある。

目より3センチ下に、ソバカスが広がっている。




そんな自分の顔が露になった。

可愛くない自分の顔が露になった。

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