第4話 最初の犠牲者
「じゃあ悪いんだけど、ミッションの方頼むよ」
と柿本くんが二人に声をかけた。
イケメンなだけでなく気遣いまで完璧とは。
こいつはどこまでもいいやつだな。
「おう、任せてくれよ。順平くんも気にしないでくれ。俺らがミッションクリアしてくるから彼女と仲良くしてろよな!」
「お、おう」と順平くんは照れくさそうに言った。
「か、彼女じゃねえし!」と岡本さんが慌てる。ああ、まだそういう関係だったか。
アイツはおれがジェットコースターが苦手なのも知ってるし、順平氏も苦手なの事にも気づいたのだろう。
それで自分が率先して乗ったんだ。そういうやつなんだ佐久間 陸ってやつは。
二人はジェットコースターに連れられ暗闇に消えていった。
コースターはガタガタと最初の山を登っていく。
俺はあの時間が最も嫌いだ。始まってしまえばすぐ終わるんだが、あの始まる前のあの時間が本当に耐えられない。
俺たちは乗り場から身を乗り出して、その様子を眺めていた。
外側に電飾がついているせいでどこにコースターがあるのかはすぐに分かるのだけど、逆に二人の様子が全く見えない。あれじゃ手を振られても全然わからないな。と思った。
最初の山のてっぺんをゆっくりと過ぎて、二人の歓声が上がった。
ジェットコースターはボロいが壊れる様子もなく気持ちよくレールの上を滑っていく。
「なんだ、楽しそうだな」
本当にこれは特別イベントだったのか? ただ主催者が滑りまくっただけの悪趣味な。俺の心配しすぎだったのかもしれない。
「ね。次は私達も乗る?」と杏奈が言った。
「い、いや、それはちょっと考えさせて」
なんて言う会話をしている間にコースターは一周回って戻ってきた。
電飾がチカチカとださい光を散らしながら俺たちの前にコースターが減速しながら戻ってきた、そしてゆっくりと止まった。
俺がかけよって声をかけた。
「おかえ――」
息が止まって、足が力を失って崩れ、尻餅をついてしまう。声が出ない。
「どうしたの? え? きゃあああああああああああああああ!」
俺を心配して駆け寄った杏奈がコースターをみて悲鳴を上げる。
他の皆が駆け寄って次々に悲鳴や、嗚咽をあげ阿鼻叫喚となった。
コースターに乗っていたはずの二人の首から上が無くなっていた。
「どうなってんだこれ、演出にしてもやりすぎだろ!」
「もう帰る! こんなの嫌よ絶対に帰る!!」
それぞれがそれぞれに叫んで会話にもならない。俺も頭の中を直接棒を突っ込んでかき回されているかのように考えも言葉もまとまらない。
俺たちがパニックになっていると、そこへブザーが鳴った。コースター発進の合図だ。
全員が一瞬叫ぶのを辞める。
俺もようやく我に返る。置かれた状況がようやく頭にただ言葉として整理されて収まった。
そこには首のなくなった二人のようなものがある。
それだけは事実だ。
本当に二人なのか。
確認しなくては。
作り物の可能性だってある。
本当に死んでいるのか?
どちらにせよ、あの二人をこのままもう一度コースターに乗せたまま行かせる訳にはいかない。
「二人を助けないと!」
俺は叫んでコースターに飛び乗った。
奥に座っていた佐久間 陸だったものの脇を抱えて座席から抱えあげる。重い。が持ち上げられないほどじゃない。だけど佐藤の体も同時に抱え出すことはできそうにない。
「だ、だれか手伝ってくれないか!」
機械音とともにセーフティーバーが降りてくる。
俺は右手で佐久間 陸を抱えたまま、左手で佐藤の体勢をずらして、セーフティーバーに挟まれないようにする。
「頼む、誰か!」
誰も動かない。
このままだとコースターが発進してしまう。
その時、一人が俺のそばに飛び乗ってきた。
「貸して! こっちはあたしがやる!」
彩だった。
「頼む!」
俺は佐藤の体の救出を彩に任せ、陸の体を力の限りで引っ張り上げた。
俺たちはコースターがゆっくりと動きだしたギリギリのところで、なんとか倒れ込むように二人を乗り場に引き上げることができた。
コースターはまぬけな電飾を携え、無人のまま暗闇に向けて走っていった。
「はぁ、はぁ。ありがとう……彩」
「無茶しすぎ。はぁ、はぁ」
他の連中が俺たちに駆け寄ってきた。
「大丈夫か!」
「それ、本当にさっきの二人なのか……?」
結論から言えば「わからないけどたぶんそう」だ。
俺たちは医者でもなければ、人が死んだところなんて見たこともない。
二人の死体はまだ温かかった。
首の部分は暗くてよく見えなかったし、誰もしっかりと確認はしようとしなかった。
そんなことできるか?
いきなりさっきまで元気に返事してた友達が、人間が、首がなくなっててその部分を確認するなんて。こんな暗い場所で、こんな状況で。
だけど、想像していたよりも血は出ていなかった。
血が出きったらそうなるのか、それとも他になにかあるのかわからないけど、血が吹き出たりしている様子はなかった。
ただ、体格や服装から間違いなく二人だった。
これが造りものかどうかの判断をするのなら解剖でもしないとわからないけど、今の俺達にそんな事ができるわけもないし、これ以上なにもできなかった。
「いやあああ!!」
杏奈が泣きながら叫び崩れ落ちた。
「ちくしょう! なんでこんなことに!」
暫くの間誰も口を開かなかった。
そのうち、またコースターが帰ってくる音がした。
「ね、ねえアレ……」
彩が指をさす方には電光掲示板がある。
下に向かって手を上げろ(3)
「あれ、数字が減ってる……?」
「勘違いじゃね?」
「いや、たしかにさっきは5だったよ。なあ?」
たしかにさっきは5だった。
陸と話したんだからハッキリ覚えている。
いつ表示が変わったんだ?
あれは手を振る回数じゃなかったのか?
コースターが戻ってきて、また俺達の前に停まった。
「どうする?」
「どうもできねえよ。このままケーサツが来るの待つしかねえだろ」
「電話も通じないのにケーサツが来るわけ無いじゃん」
「俺たちが帰ってこなけりゃ親が捜索願とか出すだろ」
「でもあたし達朝イチから来たんだし今は……あれあたしの時計壊れてるのかな。9:45分で止まってる」
俺たちがこの遊園地に入ったのが開演時間の9時ちょうどだ。
それからゆうに一時間は経っているはずだ。
「お、おれの時計も9:15分で止まってるし、動かねえ」
「ケータイの表示もよ」
どうなってるんだ、とまたパニックに陥る俺たち。
だけどなんとなくわかる。
多分これはケーサツだとか親だとかそういうのに期待できないんだ。
時間がどうして同じなのか、ケータイがなぜ使えないのか、この暗闇はなんなのか。
全部わからない。
だけど、根拠もないけど一つだけはっきりと確信した事がある。
俺たちはこの脱出ゲームからは逃げられない
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