ながら族
あべせい
ながら族
ある会社の資料室。
古株社員の渋谷(38)が中途採用された新米社員の大塚(33)に、仕事のやり方を説明している。
「仕事はざっとこんなものです。まァ、最初は慣れるまでたいへんでしょうが、出来あがりが同じなら、自分のやりやすいようにやっていただいてけっこうです」
新米の大塚が頭を下げ、
「ありがとうございます。そういっていただけると、気持ちはラクです」
渋谷、言葉を改め、
「ところで、最初から気になっていたのですが、大塚さん、あなた、昔、探偵社に勤めていたことはないですか?」
大塚、ハッとしたように渋谷を見つめる。
「いましたが……」
すると、渋谷の目が大きく開く。
「駒込駅前にあった『西京探偵社』でしょう?」
「ハイ、サイキョウです。それほど、強くはなかったですが……」
ダジャレは通じない。
「やっばりね。大塚さんは、私がやめる直前に入社して来た……」
「待ってください。私が西京探偵社に入社したのはいまから7年前です。私が西京に入って1週間後に、社長と大ゲンカをして、やめた社員がいました。それが渋谷さん、あなた、だったのですか?」
「そうです。あなた、またどうして、この会社に勤めようと考えたのですか」
渋谷は大塚の真意を探っている。
「それは、いろいろあって……」
渋谷は、ふとある考えにとりつかれる。
「どうです、会社が終わってから、ゆっくりお話しませんか。いろいろ昔話もしたい……」
大塚、笑顔になる。
「私もいろいろお聞きしたいことがあります」
2人はこうして、その日の夜、会社から歩いて20分ほどの、繁華街にある一軒の居酒屋を訪れた。
奥まったテーブル席について、先輩の渋谷が言う。
「大塚さん。あなた、いまの会社に来るまで、あの西京にお勤めだったのですか?」
「とんでもない、と言いたいところですが、実は、西京にはいろいろお世話になっていて、退社はしていますが、縁は続いています」
「それは、またどうして?」
「西京の副社長です」
渋谷、一瞬警戒するような目付きになる。
「副社長というと、社長の奥さんですね……」
渋谷が言いよどんでいると、大塚が助ける。
「西京京子です」
渋谷も、思い出したらしい。
「探偵社が借りていたビルの名前が、ビルのオーナーの名前をとって『西京ビル』となっていたから、探偵社はその西京をそっくり拝借して『西京探偵社』。社長の奥さんも、本名は神田京子だが、仕事のときは、『西京京子』と印刷した名刺を使っていた」
事情を知らないお客は、「西京京子」の名刺をもらって、自社ビルを所有する力のある探偵社なのだと勝手に思い込んでしまう。5階建てビルの3階と4階だけを借りている間借り人に過ぎないのに、だ。
「あの副社長、色っぽかったが、いまでも元気にしているかなァ」
渋谷はお酒が進んだせいか、急にくだけた口調になった。
「渋谷さんがやめたとき、京子さんは33。夫の社長は52。だからなのか、彼女は若い社員によくイロ目を使っていました」
渋谷はおどけた口調で、
「大塚、オレには、そんな色っぽい目つきは1度もクレなかったぞ」
渋谷はどちらかというと、いかつい顔だ。一般的に女性から注目されるタイプではない。
大塚はそう思っているが、露骨には言えない。
「渋谷さんは鈍感なンです」
「まァいい。それで、西京の世話になっているとは、どういうことだ」
「彼女、社長に内緒の道楽があって、ぼくはそのお守をさせられている、ってわけです」
「内緒の道楽って、若い男か?」
「男だったら、ぼくを使う必要ないでしょ。自分でやればいい」
「もったいぶるな。何だ、道楽って?」
「相場です。株式相場」
「……」
渋谷は押し黙る。
「株といっても、信用取引ですから、利益が大きいが、リスクも大きい。ただ、探偵業をしながら危険の大きい相場をするのはどうか、と意見したこともあったのですが、そのとき副社長は『わたしは、ながら族。いつでも一つのことだけをしているのは飽きる。2つのことを同時にしていないと退屈なの。探偵しながら、相場を張る』と言って。ながら族という言葉がいま余り使われないのは、食事しながらテレビを見るといった、だれでも当たり前のようにやる時代になったからですが、百万円単位の危険な相場をしながら、仕事をするのですから、彼女は困ったひとです」
「いつからだ。副社長が相場を始めたのは?」
「それは知りませんが、私が相談を受けたのは去年からです。それまでは、損ばかりさせられていた、と言っています」
渋谷が渋い顔をする。
「しかし、相場だったら、自分でできるだろう。直接、証券会社に行かなくても、携帯でもやれる時代だ」
「でも、社長は嫉妬深いというか、奥さんの携帯をしょっちゅう覗いて、厳しく監視しているというンです。ぼくが相談に乗る前も、証券会社のかかりつけの社員によく話して、連絡は副社長のほうからだけ行う。だから、ぼくの場合も副社長はぼくの意見を聞いて売り買いを決めると、ぼくが自分の携帯を操作して売買する」
「株をやる女性は珍しくない。あの社長、どうして女房が株をやるのを許さないンだ」
「あの丹沢社長は、嫉妬深いうえにケチなンです。女房のやることはすべてチェックしないと気がすまない性格です」
「証拠金はどうしている?」
「だから、ぼくの携帯で奥さんの隠し口座から引き出して……」
「やはり……」
「やはり、って?」
「いや、なんでもない。相場を始めたきっかけは何だ?」
「小遣いが足りないから、って。ぽくにはそう言っていました。もう、病気でしょうね」
渋谷は思案する。
「おれがあの会社をやめたのは、浮気女性の調査内容に手心を加えたからだ」
「渋谷さんはそういうひとなンですか!」
大塚は、芝居がかった口調で続ける。
「お金をもらって、調査内容を変更するなンて、クビになって当然でしょ」
「だれが金をもらったと言った。クビになったわけじゃない。おれは自らやめたンだ」
「じゃ、どうして調査に手心を加えたンですか」
「金じゃない。女の誘惑に負けたンだ」
「女ですか」
「浮気調査していた調査対象の人妻に、な。当時、おれの理性ではどうしようもなかった」
「それと副社長の相場とどういう関係があるンですか」
「その浮気調査の依頼主は、社長の丹沢だった……」
「ということは……」
「そうだ。副社長、すなわち京子が調査対象だった。おれは細心の注意を払っていたが、京子はおれの調査に気がついて、誘った」
「社長はその調査内容を信じたのですか?」
「わからん。しかし、おれはそんな自分がいやになって会社をやめた」
大塚が笑みをもらす。
「それで、この会社に就職したっていうンですか」
「おかしいか」
「おかしいでしょ。『そんな自分がいやになって』ですって。渋谷さん、あなた西京をやめるとき、会社の金600万円を持ったまま、行方不明になっているじゃないですか」
「だれに聞いた!」
「決まっているでしょう、副社長です。脱税していたお金の一部で、公にできないから、丹沢社長は泣き寝入りしていますが……」
「きさま、それでこの会社に! あれは京子との手切れ金代わりだ。丹沢はそうと承知したから、見逃しているンだ」
「ずいぶん都合のいい理屈ですね。丹沢社長はいまでも怒っていますよ」
「おまえは丹沢に頼まれてこの会社に来たンだろッ」
「ゲェッ! 気がついていたンですか」
「当たり前だ。最初からおかしいと思っていた。京子か、それとも……智果(ともか)」
「智果って、経理と探偵助手をやっていた藍池智果ですか」
「西京で、おれが親しくしていた唯一の女性だ」
大塚、いきなりカッとなって、
「あんた、あんたはなんてひとだ!」
「待て、落ち着け」
渋谷は大塚のグラスにビールを注いで、自分も一気に飲む。
「おれが副社長に誘惑されて調査内容をいじったことは話しただろう。当時、おれは智果から金を借りていた。給料の前借りだけでは追いつかなくなって、経理をしていた彼女に個人的に融通してもらっていた。それだけの関係だ」
「借りたままなのでしょう」
「そういうことだ」
「いくら借りたンですか」
「うーむ、ざっと200かな」
「2百万円! 渋谷さん、それじゃ、結婚詐欺じゃないですか」
「結婚? そんなンじゃない。純粋に借用書を書いて借りた。詐欺なンていうな」
「信じられない」
「西京にそのままいれば、給料から少しづつ返すつもりだった」
「いい加減な! 彼女、そのあとどうなったか、知っていますか」
「電話で何度かやりとりしたが、西京の後、会社を3つばかし変わったから、その後は音沙汰なしだ」
「あなた、それで自分の責任を果たしたつもりですか。そんなことをやっているから、こんなことになるンです」
大塚はそう言うと、脇においていた小型鞄の中から封筒を取り出し、テーブルに置いた。
「なんだ?」
渋谷が封筒の中身を改める。
中から、借用書と記された同じ筆跡の紙切れが5枚出てくる。
「よく集めたな」
渋谷は呆れている。
「智果さんの分を含めて、合計730万円の借用書の束です。貸し主はすべて女性、あなたが勤めていた3つの職場の独身女性ばかり5名です」
「きさまは何者だ。こんなものを持ってきて、どうしようというのだ」
大塚は鞄から名刺入れを取り出し、中から1枚の名刺を差し出す。それには「大塚総業代表 大塚易真」とある。
「西京で培った技術と経験をもとに、貸し金の取り立てを行っています。もっとも、仕事の半分は西京からいただいていますが……」
「ずいぶん回りくどい登場だな。海千山千のおれから、730万円、ふんだくろうというのか」
「あなたにお金がないことはわかっています」
「どういうことだ」
「わたしがどうして、この会社に非正規とはいえ、就職したか。考えてご覧なさい」
「わからん。早く、しろ」
「この会社はなにをする会社ですか」
渋谷は押し黙る。
「証券会社。顧客の依頼で株を売買する会社じゃないですか」
「きさまが考えていることはわかるが、そんなことがうまくいくわけがない」
「あなた、口ではそんなことをいっていますが……」
大塚は渋谷の目をじっと覗く。
「あなたのことだ。もうやっているでしょう?」
渋谷、グッとつまる。
「相場をあまくみるな。おれは西京をやめたあと、別の探偵社に行ったが、2年後、勧められて証券会社に入った。そして、いまの北都証券が3つ目。まだ、相場経験は4年弱だ。中にいれば、情報がいろいろ掴めて相場は当たると思ったが、うまくいかん」
「だから、証券会社を1年ごとに移って、この北都証券が3社目ですね」
「調べたのか」
「渋谷さん、手張り(てばり、証券マンが自分のお金で株を売買すること)はご法度のはずですよ。それだけで、クビにされてもおかしくない」
「みんなやっていることだ」
「その口ぶりでは、マガッているンですね。相当、負けがこんでいる」
「ほおっておけ。いまがガマンだ。やがて持ち直す」
大塚、ニヤリッとして、
「わたしが言ったのは、手張りのことじゃありません」
渋谷、カーッと一気に熱くなる。
「きさま、おれにカマをかけたのか」
「カマじゃないです。あなたが自分で勘違いして、勝手にしゃべっただけです。私がお勧めするのは、顧客からお金を借りる……」
「バカ言え! そんな顧客がいたら……」
「いたら、すでに借りていますか? 私は資料室の整理で雇われたバイトですが、採用されてからきょうまでの3日間、社内でのあなたの評判を聞きました」
渋谷は苦い顔を続けている。
「あなたは顧客に損ばかりさせている。儲けさせない証券マンに、顧客がお金を貸してくれるわけがない」
「きさま、いったい、何を言いたいンだ」
「でも、あなたには一人だけ、救いの神がいます」
「だれだ」
「西京京子……」
「京子?」
「彼女はあなたの虚偽調査報告書がきっかけで、社長に不倫がばれ、ぼくが入社して2年後、離婚しました。彼女は浮気の資金を得るために細々と相場をやっていましたが、離婚後は相場にまっしぐら。しかし、彼女は西京の看板探偵長だから、副社長の地位はそのままです。こんなことはすでにご存知ですね」
渋谷は無言。
「彼女は離婚してからはだれにも邪魔されることなく、株にのめりこみました。渋谷さんが証券会社に入社したのは、彼女の勧めでしょう。去年まで京子さんの売買を手伝っていた」
「西京をやめてから別の探偵社にいたら、たまたま仕事で彼女が訪ねてきて再会した。聞くと、社長と離婚して、いま株にのめり込んでいる。証券マンになって手伝ってくれないかと言うから、顧客がいるのなら証券マンも悪くないと思って、転職した。しかし、思い通りにはいかなかった。おれたちペーペーに届く情報は、ガセが多い。例え儲けても、額は微々たるものだ。だから、去年、彼女の売買依頼を受けたとき、こんなことなら……」
渋谷がハッとする。ようやく思い当たった。
「そうです。最初から、損をするなら、実際に売買なンかしないで、書類上の売買にしておくのです。ノム……」
「ノミ行為か。そんなことをして、もし、もしもだ。相場が当たったときは、どうする」
「そのときはそのとき。彼女は渋谷さんを通じて、これまでいくら相場で損をしています?」
「ざっと500」
「500万円。彼女は離婚の際、財産分与で5千万円を手にしたと口では言っています。しかし、実際は恐らく、その3倍はあるでしょう。手堅く考えて、まず彼女に2千万円の相場を張らせる」
「しかし、おれにはもう彼女の信用がない。損ばかりさせているから」
「だから、ぼくがこの会社に就職したンですよ。彼女には資料室係なんて言っていません。だから、実際には渋谷さんが彼女の建玉(タテギョク)を扱います。売買報告書はぼくの名前で偽報告を作成します。どうです、この提案は……」
渋谷は考える。どのみち、おれには損はない。
3ヵ月後。この間、株式相場は乱高下を繰り返し、一般投資家は振り落とされた。
西京ビル4階にある「西京探偵社」。
渋谷が訪れる。
「失礼します」
そこは20畳ほどのフロアー。机が8卓あるきり。
左手に「会議室」とプレートを張りつけたドアがあるが、中はシンクとガスコンロがあるだけ、半畳余りの極せまの給湯室だ。
フロアーの奥の壁を背に「社長」のプレートを前に置いたデスクがあり、そこに京子がどっかと腰掛けている。ほかに社員はいない。
京子、顔を上げ、不思議そうな顔をする。
「渋谷じゃない。どうしたの? 大塚が来るンじゃないの」
「実は彼が来るべきなンですが、ちょっと急病で。私が代わりに参りました」
「なんか、イヤな予感がするわ。まァ、そこに座って」
傍らの応接セットを勧める。
渋谷、回りを見渡し、
「ほかの社員の方は?」
「きょうは日曜でしょ。もう忘れたの。社長も事務関係の者は休み。下の3階は探偵業務だから、調査のある者は外出している。で、いい話なンでしょうね。そのつもりで、わたしは日曜出勤して、いちばん豪華な社長の椅子に腰掛けているンだから……」
しかし、3分後。
「なんですって! 損させたうえに、追加証拠金! なに、寝ぼけたことを言ってンの! あなたに頼んでいたのなら、それも仕方ないでしょ。でも、わたしは大塚クンに任せたの。彼は、あなたと違って、ここ(頭を指差し)がキレるの。『絶対、損はさせません』って、彼は言った。彼が言ったら、絶対なの。2000万円も出して、追証(おいしょう。追加証拠金のこと)を出せ、って!? そうでないと、2000万円は消えてしまう、って。よく、そんなふざけたことを言いに、ここにやって来られたわね。あなた、わたしにいままでいくら損させた!」
京子、渋谷をジッと睨みつける。
「あんた、ノンだわね。そうでしょ。そっくり、ノンで、相場がマガるのを待っていた。そうでしょ! 白状なさい! もゥ、いままであなたに任せていた相場だって、本当に取引所に出していたか、怪しいものだわ。こうなったら、出る所に出て、白黒つけてあげる」
渋谷、ガバッとその場に土下座、顔をあげると、
「副社長、私は悪いことの出来ない男です。このクビにかけて、不正はしていません」
「なに、よくもヌケヌケと言えるわね。あなたのことは大塚クンから、いろいろ聞いているの。女を騙して金を借りまくっているンでしょ。もう、あなたは終わりよ」
渋谷はほうほうの体で西京探偵社のオフィスを出た。
しかし、彼は、そのドアを一歩外に出ると、長い舌をペロリッと出した。
「あのヒステリーには参ったが、これで、1000万円はいただきだ」
さっばりしたという顔をして、悠然と雑踏に解け込んでいく。
一方、オフィス内では、京子が「会議室」のドアに向かって、明るく呼びかける。
「いいわよ。もう、出てきて」
大塚が会議室という給湯室から姿を現し、社長席の前に立った。
「聞いていたわよね」
「渋谷もなかなかの役者です。ノミ行為をしている癖に、絶対に認めない。そこに出してある報告書なんか、紙くず同然なのに」
「それで、大塚クン、あなたの報告書は? わたしにいくらもうけさせてくれたの?」
「まだ手仕舞いしていませんから、いまのところ帳簿上の話ですが、4000万円余りの益金が出ています」
「明日、一番に手仕舞いすれば、その4000万円はわたしの口座に振り込まれるのね」
「もちろんです」
「でも、あなたはわたしの指示に従わないで、わたしが『買い』と言ったら、『売り』、『売り』と言ったら、買っていたじゃない」
「ご存知だったンですか」
「わたしは探偵社の副社長よ。手足になってくれる探偵がゴロゴロいるの」
「実をいいますと、副社長の売買は素直に聞くことができせんでした。京子さんの相場観はいままで当たった試しがない。ぼくも相場が語れるほど経験は深くありません。ですから、ぼくは逆、逆で行こうと決めました。渋谷がさきほど申し上げたのが、京子さんの売買の結果です」
「でも、もし、あなたのほうの売買が外れていたら、どうするつもりだったの?」
「そのときは潔く、ノンだことにして逃げるつもりでした」
「腹をくくっていたのね。約束通り、あなたにお礼をしなくちゃいけないわね」
「私は取り立て屋ですから、渋谷が踏み倒している女性たちの貸し金があればけっこうです。それも全額でなくても、7割程度あれば、納得させられます」
「7割というと、取り立て金の総額は730万円だったわね。その7割として、510万円ほど。あなたへのお礼を含めて、1000万円、渡すわ。いい?」
「ありがとうございます」
「でも、渋谷は、わたしの2000万円をノンだつもりでいるから、半分の1000万円を寄越せとあなたに言うわよ」
「そうしたら、京子さんからいただく1000万円を渡します。もっとも、そこから取り立て分の730万円を差っ引いて、ですが」
「あなた、ただ働きになるわね」
「仕方ありません」
大塚はにこやかな顔をしている。
「あなた、動じてないわね。しっかり儲けている、ってことね」
「京子さんだって、ほかの証券会社を使い、両建て(同時に売り注文と買い注文を出すこと。通常は差し引きゼロで損も得もなく、手数料の分だけ、マイナス勘定になる)しているじゃないですか。万一、外れたことを考えてのことでしょうが、私を通じて渋谷に指示した売買の全く逆の売買をされています。ですから今回は、私があなたに無断で行った売買と合わせて、結果的には、両建てではなく、片建てをダブルでやったことになりますから、利益もダブル。1億近い益金が入っているでしょ」
「調べたの。あの証券マンには、くれぐれも秘密だって、言ったのに」
「この世界では秘密は通用しません」
「1億ってこともないけれど。まあ、近いわね。ケガの功名というやつよ」
「京子さん、もし、相場が外れていたら、どうするつもりだったのですか」
「大塚クンは、トンヅラするって言ったわね」
「わたしはそういうあなたを追いかけて……」
「追いかけて?」
「わたしは、ながら族よ。追いかけながら、考えるわ」
(了)
ながら族 あべせい @abesei
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