第45話 真実の壺の真実は
観客が帰った寂しい闘技場で、ユリカたちは正座するミユと半分砂金が入ったバケツを取り囲み、静かに佇たたずんでいた。
「はい、それでは反省会を開きます」
ユリカが静かに宣言すると、死んだ魚のような目をしたミユが顔を上げた。
「だからさ……入れた物が金に変わるバケツなのよこれ……取り出すと元に戻っちゃうけど……」
バケツからすくって捨てた砂金は単なる砂になっていた。召喚された鉄のシャベルもバケツに突っ込んでいる間は確かに金色に輝いていたのだが……。
「あ、杖の先が金になった」
ギリーがバケツから杖を出すと、元の樫の木に戻った。
「お師様、これ手品に使えませんかね」
「せいぜい詐欺師の道具ですね。しかしこれで良かったのですよ、金の価値が突然なくなってしまったら、それこそ経済が混乱して国が滅びますからね」
「その通りだな、金貨がゴミになるところだったな」
ディーは残念ながらもテナテナリに同意するしかなかった。
「しかしお館様、金庫蔵にはもう金貨はありません……」
「そうだったな……あの土地は街のそばで便利なんだが……」
「あっ、指が金に変わったぞ、おもしれーなこれっ」
ブランがバケツの中から手を引っ込めると、血の通う指に戻った。
「俺もいつかは魔闘会に出るつもりだけどさ、ミユならいつだって優勝できるだろ? 来年はつかめるだけの宝石でいいじゃないかっ」
ブランがそう言うと、呆れたテナテナリがまた事実を告げた。
「残念ですが、真実の壺に手を入れることができるのは、一生に一度きりなのです。二度目からはせいぜいが手首までで、肩までは入りません」
「それならお師様が、優勝したらいいのでは?」
「私は、すでにあの壺に手を入れていますのでね……」
「えっ! お師様っ、何を頼んだのですっ?!」
「内緒です」
「いいじゃありませんかっ、教えてくださいよ!」
「いやですよ」
「あのー、そろそろ門を閉めたいので……退場してもらえませんか……このバケツも邪魔なので何とかしてください……」
闘技場の管理官がやって来て、申し訳なさそうにミユたちに告げた。
「ちょっと思いついたんだけど……」
ミユが神妙な顔でバケツに目を向けた。
闘技場の地下室。
ミユは安置されている黄金像の手にバケツを被せた。
「いいわねギリーちゃんっ、せーのっ」
ミユがバケツを外すと、手袋を握る黄金の手が一瞬輝きを失った。
〝バチンッ〟
すかさずギリーが杖でその手を叩くと、握られた手袋が床に落ちた。
こうして、黄金像は人に戻ると、兄であるデカインとの再会を果たしたのだった。
以来、引き取り手のない手袋と水色のバケツは地下室に置かれることになったが、勘違いをした泥棒がたびたび地下室に侵入し、管理官を困らせるのだった。しかし、大抵は縄で縛られた後に人に戻され、檻に入れられるのがオチであった。
真実の壺は、人間の大きすぎる欲を戒めるためにあるのだ、と言われている。
〔第45話 真実の壺の真実は 終〕 第三部 真実の壺 完
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