第40話 ミユとユリカの見る夢は

 一週間前、白庭の館にて。

「今日で講義は終わりですが、魔術法典の概要と私の専門である召喚術の基礎はしっかりと教えました。あとはマクラギさんの努力でギルド支部の推薦を勝ち取ってください」

「もう帰っちゃうの?」

「ちょっと用事がありますのでね。聖キリオンには花守り姫様に送ってもらうよう、頼んであります。あの方は場所をご存知ですからね」

 こうしてテナテナリとエタンは、急ぎディーの屋敷を後にしたのである。

「お師様、まさか用事っていうのは……」

「ええ、マクラギさんの優勝は絶対に阻止しますよ……」


 三日前、ユリカのアパートにて。

「ねえミユ、召喚の魔法って生き物しか出せないの?」

「どうかな……テナテナリのおばちゃんは、イメージをしっかり持って、それに見合うだけの魔力を流し込めばいいって言ってたけど」

「じゃあさ、1万円の札束ってーのは……」

「うーん、通し番号がダブっちゃうかなー……」

「それじゃ金の延べ棒は……番号が刻印されてるか……金貨はどう?」

「それなら見本があればいけるかもっ」

 ユリカはスマホを急いでたたき、ミユにメイプルリーフ金貨の映像を見せた。

「よーしこれなら……金貨……金貨……ムムムッ……」

〝チャリーンッ〟

 二人の足元に心地良い音が響いた。

「姉ちゃん……」

「ミユ……」

 ユリカは震える手でそれを拾うと、裏と表をじっくり眺めてからおもむろに噛んだ。

「やだっ、これ本物の金貨よ!」

「やったーっっっ!」

「ミユっ、ありがとうっ!」

「ほーっほっほっほっ!」

 しかしミユの高笑いは、ユリカの手から美しい輝きが不意に消えると同時に消えた。

「ミユ……私の金貨は……どこ行ったの……」

「あっ、そうか、気を抜いたら消えちゃうんだ……テナテナリのおばちゃんが言ってたっけ……。それじゃ姉ちゃん、こんなのはどう?」

 ミユはスマホで検索すると、嬉しそうにユリカに見せた。

「これなら予選突破して、魔闘会でも優勝できるでしょ!」

「だってあんた……相手殺したら失格になるんでしょ?」

「たぶん一トンぐらいまでなら大丈夫じゃない? 知らんけど」

 するとユリカも負けじとスマホをいじった。

「それならいっそのこと、これとか……」

「いや、これは大きすぎない?」

「さらにこれとか……これを使えば……」

「いや姉ちゃん、さすがにこれはアカンやつでしょっ!」

「ミユ、優勝してねっ!」

 アパートの部屋の掃除を終えた二人は、残った荷物をまとめると鍵を管理人に返した。

「姉ちゃん、家に帰ってこないの?」

「しばらくはディーの所でお世話になるわ」

「あの部屋、解約しなきゃ良かったのに」

「だって……温泉旅行をしながら海辺の家を探そうと思ったのよ」

「姉ちゃん気いー早すぎっ」

「うへへっ」


 そして当日、ハイミ=テニラの支部予選にて。

「勝者っ、マクラギ・ミユ!」

 受付嬢が旗を振り宣言すると、試合会場である廃墟は大きなため息と歓声に包まれた。

「ミ、ミユさんっ、何を召喚したんですか……」

「軽トラックよ!」

 デカインを轢いたそれは既に消えていたが、ギリーは見てはいけない物を見てしまったような気がしていた。

「ミユーっ、よくやったわーーっ! 410万円ゲーット! うひょひょーーい!」

「ほら見ろギリーっ、ユリカが壊れたぞ、これだからギャンブルはなぁ……」

「う、うん、気をつけるね……」

 とは言うものの、懐に転がり込んだあぶく銭を次の魔闘会本選で倍にしようと決めたギリーであった。

「ミユさんっ、次もがんばってね! ひへへっ!」


                〔第40話 ミユとユリカの見る夢は 終〕

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