第41話 いざ、魔闘会

 聖キリオン公国は、大陸の中央に位置する文化と貿易の要衝である。故に人口の半分は観光客で、特に魔闘会が開かれるこの時期になると、出場する有名な魔法使いたちを一目見ようとする人たちで街はあふれかえる。さながらアイドルイベントとスポーツ大会をかけ合わせた様相で、結果として闘技場をのぞむ大通りは賭け屋だけではなく、食べ物や土産物、酒を売る屋台などが並んでお祭り騒ぎになるのだった。

「お館様ーっ、やっとトーナメント表を手に入れました!」

 チアガールの格好をしたリノンとユリカが、ポンポンを揺らしながら急ぎ戻ってきた。二人は街角で、魔闘会のプログラムを配る列に並んでいたのだった。

「あれっ? ミユとあの子らはどこに行ったの? もうすぐ開会式の時間だけど」

「あそこで引っ掛かっとるな」

 ディーが指差す屋台からいい香りが漂ってきた。もちろんディーもチアガールの姿であり、腰まで届くポニーテールがとてもよく似合っている。ちなみに、この衣装は『枕木百合華 二十六歳』という書物に影響された二人のエルフがミユを応援するために用意したものである。

「姉ちゃんこっちこっち! この岩猪の串焼き美味しいよ!」

 ただ一人、ミユが着ている純白のセーラー服は、ディーとリノンがデザインをして魔法耐性のある蜘蛛の糸を織り込んだ新作の一張羅いっちょうらである。そして、ギリーとブランはちょっとした小金を手に入れて気が大きくなったプロレタリア階級の見本となっていた。

「ねえブラン! この鉄砲蛇の蒲焼き今度作ってよ!」

「この提灯ちょうちんコウモリの蒸し焼きもいけるぞ!」

 当然ながら、二人とも可愛いチアガールの衣装を着ているのだが、ブランにはディーが目眩めくらましの魔法をかけているのであった。

「お館様、これはもしかして……」

「うむ、男の娘というやつだな」

『枕木百合華 二十六歳』は、しっかりと腐っていた。


「みな様、ようこそいらっしゃいました、聖キリオンの地へ」

「ようこそでーすっ」

 競技場の正門を抜けると、テナテナリとエタンが待っていた。

「さあマクラギさんっ、時間がありませんよ、ギルドの推薦状は持っていますね」

「えーっと、これねっ」

 ミユは黒いカードをポケットから取り出すと、団扇うちわのようにヒラヒラとあおいだ。

「エタン、私はマクラギさんをお連れしますので、あなたはみなさんを観客席にご案内なさい、関係者は無料で入れます」

「はーいっ、ではみなさんはこっちですよーっ」

 エタンは杖をぐるぐる振り回しながら、関係者用の白いカードを手にディーたちと競技場に入った。

「お館様、この第一試合の組み合わせですが……」


 ミユの手を引くテナテナリは、選手専用の薄暗い通路を急いだ。

「さあっ、今から私たちの出番ですよ!」

「えっ……私たちって?」

 闘技場に姿を現したミユとテナテナリを、大歓声が迎えた。

「もちろんっ、私とマクラギさんが今から戦うのです!」

〝カーンッ、カーンッ、カーンッ、カーンッ、カーンッ〟

 開会の挨拶を終えたクライン公爵が、宴舞台えんぶたいで魔闘会の始まりを祝う鐘を打ち鳴らした。

「魔闘会は対戦相手の指名ができるんですよ」

 テナテナリはローブの裏から杖を抜くと、自分の身長より長く伸ばした。

「夜の茶会としましては、マクラギさんが調子に乗らないように優勝を阻止しなければなりません。いいですねっ、手加減はしませんよ!」

「ほっほっほっ、望むところよ!」


                     〔第41話 いざ、魔闘会 終〕

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