第38話 黄金の夢が待っている
「お館様、いっそのこと我々も魔闘会に参加しましょうか」
「真実の壺か……興味深いがな……」
「ネハリ会長、あなたは以前に壺から出された宝石を購入したことがありますね」
「はい、あれは確かに色も美しく透明度も一級品でした。しかしテナテナリ様、一応失敗の例もお伝えした方が……」
「まあ……そうですね……あれは十年前でしたか、触れた物が何でも黄金に変わる手袋、というものを出した人がいましてね……」
「何それ欲しい!」
「ちょっとミユっ、落ち着いて」
「しかし壺から取り出した瞬間に、その人自身が黄金になってしまいましてね、それ以来、闘技場の地下室に安置されているそうです」
「その人欲しい!」
「ちょっとお姉ちゃんっ、落ち着いて」
「しかし、簡単には優勝できませんよ。世界中から集まった魔法巧者や武芸に秀でた術者たちが競い合うのですから」
「それに魔闘会の本選に出場できるのは、各ギルド支部から推薦を受けた一名のみですよ、まずはギルドの支部予選を勝ち抜かないとですねっ」
「ねえっ、ギリーちゃんも出場しない? 私が登録したギルドとは別なんでしょっ?」
「私は……人間相手はダメです。岩とか木とか、スライムで修行してきたので」
「たまに俺が的になって練習してるじゃないか」
「だって、ブランは走ったり守ったりするだけで、攻撃してこないもんっ」
「そういえばブランて魔法は使えないの? 剣士やってるけど」
今更ながらのミユの質問であった。
「あー……俺に憑いてる精霊は上品なんだ……」
「ブランのお星様は料理が得意なんだよねー」
「いやそれ、職業間違ってね?」
「剣も包丁も一緒だっ!」
「それでは、マクラギ・ミユさんには夜の茶会に入会していただく代わりに、私が魔術法典を教授するということでよろしいですね」
「はいっ、よろしくお願いします!」
「なんでお姉ちゃんが返事するのっ」
「ミユさん大丈夫ですか? 私の杖貸しましょうか?」
「ほっほっほっ、ミユにおまかせ! ちょちょいで勝っちゃうから!」
「言っておきますが、禁呪は使用できませんよ」
「えっ、ダメなの?!」
「そこからですか……」
「ミユさん、禁呪の意味分かってないでしょ……」
「お師様っ、楽しみですね!」
「フッ!」
〝ゲコッ!〟
「ねぇミユ、言っとくけど私は無職だからね、後が無いからねっ、頼んだからねっ!」
「あー分かった分かった、優勝してお宝ゲットするから」
「あの、ディーさん……まだ早いかもしれないけど……」
「そうだな、試しにギリーの本を採ってみるかな」
「はいっ、お願いします!」
しかしながら、『ギリー・バンボン 十一歳』は同人誌のように薄く、ギリーの夜の茶会への入会は認められなかった。そして、毎年発行され続けた『ギリー・バンボン』シリーズは、三十二歳版を最後として、見習いから上級者に向けた魔法使いの聖典となったのである。
〔第38話 黄金の夢が待っている 終〕
第二部 メイナグの塔 完
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