第35話 バーレイ村の宴 後編
「ミスタービッツ、あえて聞くが、今日は何の料理かな?」
暇を持て余したディーは、忙しそうなミスタービッツを捕まえると尋ねた。
「はい、本日はレッドドラゴンを一頭丸ごと使って、みなさんにフルコースをご用意いたします」
村の広場の中央に横たわっていた燃えるように赤いレッドドラゴンは、既に解体が終わり臨時に設営された調理場に運ばれていた。
「私は野菜多めのマシマシでっ」
ミユがミスタービッツに注文をすると、続いてギリーとブランも手を上げた。
「ビッツさん、私はキノコマシマシでっ」
「俺は……肉マシマシでっ」
「かしこまりました」
そう言うと、またミスタービッツは忙しそうに走り、どこかに消えてしまった。するとその時、一枚の折り紙鳥がテーブルにとまって、一声鳴いた。
「おや、これはお館様宛の親展ですね。ネハリ様からです」
「どれ……中間報告をお送り………財宝の概算見積だな………」
ディーが折り紙鳥を開いて読み上げた。
「……『あの財宝は、大金貨で七万二千枚になります』とな……」
ギリーとブランは聞きなれない数字に理解が追いつかず、考えるのをやめた。
「お姉ちゃんっ、大金貨で七万二千枚って、円にするといくらになるの?」
「円ねえ……えーっと、ディーとリノンがこの前食べてたパフェって、その大金貨一枚でいくつ買えるの?」
「そうですね……あの限定パフェはだいたい銀貨一枚分ですから、大金貨だと約八十杯になりますね」
リノンたちは銀貨を質屋に売却して、円貨を手に入れているのだった。
「ミユ、あのパフェって一杯いくらなの」
ミユはグラスの乗ったトレーを片手に乗せると、にっこりと笑い答えた。
「予約限定チョコーレートフルーツタワーパフェは、お一つ1,250円になりますっ」
ユリカは地面の土に数字を書いて計算を始めた。キャバクラでは接客優先のため、ホールへのスマホの持ち込みは禁止なのだった。
「パフェ八十杯掛ける1,250円で……大金貨一枚が10万円になるから……」
「ちょっと姉ちゃん、なんかゼロが多くない?」
「……大金貨で七万二千枚って…………72……億……円……」
「えっと、72億円って、パフェにするといくらに……」
ミユは自分が何を言っているのか分からなかった。
「ミユ……六人で分けるとね……一人当たり……12億円に……」
「お姉ちゃんっ、それ税金かからないよね!」
「うへへっ……」
ユリカにはこの後の記憶がほとんどない。うっすらとだが、ギリーとブランの両親に会って話をしたような……村長の開宴の挨拶が長かったような……気がするが、せっかくのレッドドラゴンの味も、どうやって狭いアパートの部屋に帰ったのかも、ユリカは全く覚えていなかった。唯一覚えているのは、12億円という夢のような金額だけであった。
「うへへっ……」
〔第35話 バーレイ村の宴 後編 終〕
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