第34話 バーレイ村の宴 前編
ギリーとブランの故郷であるバーレイ村は、騒がしかった。
村にある全てのテーブルと椅子を集めた広場では、レストラン・カッファーニのスタッフたちが走り回り、シェフが総出で丸ごと一頭のレッドドラゴンを解体する様子を、村人たちが見守っていた。
「ミスターカッファーニ、今日は翼がしなやかだな」
「ディー様、リノン様、本日は出張サービスのご利用、誠にありがとうございます」
「今日は見ない顔が多いですね」
「全ての支店を臨時休業としまして、全員が応援でこちらに参っております。ツノと尻尾が足りませんので」
「それは難儀だな。まあ一つの村を丸ごと店に招待するようなものか」
「私たちを入れると、百人ぐらいでしょうか」
「支払いは済ませとるから心配はいらんでな」
「ありがとうございます。メイナグの塔の財宝についてのお噂は聞いております……ギルド界隈がさらに騒がしくなっておりますな」
「ますます口が緩くなっとるな、ネハリのオヤジは」
二週間前、白庭の館に呼ばれたネハリ商会のネハリ氏は、食堂の大きなテーブルに山と積まれた財宝を見てため息をついた。
『……すばらしい……』
『鑑定と買取を頼むでな、見積もりはいつ頃になるかな』
『これだけの量になりますと、早くても一ヶ月はかかります。目録も作成せねばなりませんので……』
『では任せるで。ああ、それとな、レッドドラゴンを一頭、バーレイという村に送ってくれ。代金はこの財宝から引いてくれて良いで』
メイナグの砂漠から戻ったミユたちは、慰労パーティを開くことを決め、バーレイの村人全員を招待することにしたのだった。何といっても村中からかき集めた魔法薬は、ミユの回復に全て使い切ったのである。そして、準備中のパーティ会場では既にそこかしこで酒盛りが始まっているのだった。
「お嬢様、杖をお預かりいたします」
ピンク色の尻尾を振るウェイトレスがギリーに微笑んだ。
「あ、お願いね」
黄色いサテンのパーティドレスを着たギリーは、少し歩きにくそうだ。
「だから今日ぐらい杖は置いとけって言ったのに」
「ブラン、曲がってるよ」
ギリーは微笑みながら、ブランの蝶ネクタイをギュギューッと絞めた。
ギリーのドレスとブランが着ているタキシードは、ミユとユリカがわざわざ二人を銀座に連れて行き、この日のためにオーダーしたのである。
「お姉ちゃんっ、それってキャバクラ用でしょ!? 後で貸してっ!」
ユリカは、ピンク色のラメ入りミニドレスで着飾っていた。
「分かる? 一番のお気に入りなんだけど、今日はパーティだからって……ちょっとやりすぎちゃったかな」
化粧もキャバクラ用のユリカは、村中の男の視線を一身に集めてしまい、ちょっと困っているのだった。
そしてミユは、安定のセーラー服かと思いきや、真っ赤なドレスを新調して上機嫌だった。ちなみにディーとリノンはなぜか巫女装束をまとっているが、どうやらおめでたい席で着る正装であると勘違いしたらしく、どこで手に入れたのかしっかりと白い足袋たびに赤い鼻緒の草履ぞうりまで履いていた。
「まーた都市伝説が生まれそうなんだけど……その衣装後で貸してっ!」
と、ミユは二人を見て言ったのだった。
〔第34話 バーレイ村の宴 前編 終〕
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