第33話 砂漠の空はどこまでも青く

 日食が終わり空が明るくなると、砂煙の向こうにいるミユたちが馬車を走らせた。崩れた塔の周りには、キラキラと光る宝石や金貨が無数に散らばっている。

「みんなまだ動いちゃダメよーー」

「まあ焦らんでも良いで、しばらくは様子を見守るしかないでな」

 今ここで岩陰を出ると、馬車にいるミユたちに見つかってしまう。


「ギュワアッアアッアアァッァァアァアーーーーーーーーーンンッッッッ!」

 レッドドラゴンが崩れた塔の中から姿を現した。

 再び空が暗くなると、月から一筋の光が放たれた。ミユがレッドドラゴンと闘っているのだ。

「ねえミユっ、そろそろいいんじゃないのっ?」

「お姉ちゃんっ、落ち着いて!」


〝ゴロロッッ!〟

 雷鳴が聞こえた。ギリーがサンダードラゴンのイバラを呼び出したのである。

「ねえミユさんっ、もういいんじゃないですかっ」

「まだまだっ、ギリーちゃん落ち着いてっ!」


 ミユが馬車を飛び出して駆け出した。囮になっているのだ。

 レッドドラゴンが炎の息を吐くとミユは炎に包まれた。

「おいミユっ、俺はもう行くぞっ!」

「まだよっ、ブラン落ち着いてっ!」


 レッドドラゴンの首が落ちると、ディーたちの乗った馬車がミユの元に向かった。

「さあミユさんっ、行きましょうか!」

「まだよリノンっ、落ち着いて!」


 空が暗くなり、魔王の影が空を覆った。

「ミユ、落ち着いてな」

「ディー、みんな、そろそろ行くわよっ!」

 魔王は風のように地面を這い回ると、散らばった宝をかき集めて竜巻のように渦を巻いた。

 ミユは隠れた岩から身を乗り出すと、静かに呪文を唱え始めた。


「入いれ入れ月夜、空の果て……月夜終わりて陽が昇る……」

 ミユの瞳が白く輝いた。


「ミユさん、それって〝月入りの唄〟ですよね……」

「入れ入れ月夜……」

 暗い空が急に明るくなった。


〝おおおおお…………おおおお…………お…………お……〟

 魔王の雄叫びが聞こえる。

〝エル……フの花守り……姫よ……おお……助……けて…………く……れ……〟

 悲しそうな断末魔がメイナグの砂漠に染み込んでいく。しかし、ディーとリノンは小指を口に咥えて古の誓約を守るのだった。


〝……ミ……ユ……〟

 魔王の影は、どこかに消えてしまった。


「あの……ディーさん…………魔王って、夜影の神でもあるんですよね……」

 ギリーとブランの顔から血の気が引いている。

「まさか、ミユさんは……」

「ミユは神殺しをやったのか……」

「えっ!? 何それ怖いっ。私って悪いことした?!」

「いや、それはないで。ああいった存在には初めも終わりも無いでな、死を得ることはないだろう。おそらくまた、いつかどこかに現れよるで」

「それならいいんですけど……まったくもう、ミユさんは……永遠に呪われるかと思いましたよ……」

「ミユに怖いものはないのか……」

「ほーっほっほっ!」

 ニーッコリと笑うミユであった。


「さあみんな! お宝を取りに行くわよっ!」


 ミユたちは、魔王が集めた宝の山に一斉に走り出した。そして、向こうにいるディーたちは、不死の権利を失ったミユを慌てて回復させているのだった。

「姉ちゃんてさー、ホントに私のこと好きだよねー」

「何言ってんのっ! 心配ばっかりかけさせて!」

 倒れたミユを抱きかかえたユリカは、そっと妹の頭を撫でながら涙を浮かべていた。


 太陽が輝く砂漠の空は、どこまでも遠く、青かった。


 〔第33話 砂漠の空はどこまでも青く 終〕

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