第32話 メイナグの塔、再び

 白い花に囲まれたディーの屋敷の裏庭に、ミユたちは小石を並べて大きな日時計を作った。それは、時の魔導書に記された日時の基準を示す魔法陣だ。ミユたちは空の鞄やリュックを抱えると、全員で輪になってその中に座った。

「それじゃ始めるけど……なんか薬みたいねこれ」

 ミユは指輪から外した月の雫石を口に入れた。

「ミユ、それ洗って返してくれるんでしょうね?」

「ミユさんっ、どんな味ですか?!」

「ギリー、何でも拾って食べるのはやめろよな」

 ミユは目を閉じてメイナグの塔を思い浮かべると、一気に聖水を喉に流し込んだ。


『ミユさんっ、何か見えますか?』

『塔が見えるわよー』

『本当にアレに登る気ですか?』

『登らないわよーっ』

『えっ、だって……』


(あの時……私はあの岩の上にいたから……もう少し離れた場所に……)

「ちょっとミユっ、あんた平気なの?」

 ミユの口から光が漏れている。

「お館様、大丈夫でしょうか?」

「分からんな、あの魔道書はアも読んどらんで」

 時の魔導書は、ミユが棚に戻してから行方不明になっている。

〝プシューーーーーーーーーーッッッッ〟

 ミユの口から光が滝のように流れ始めた。

「おいミユっ!」

「ミユさんどんな味ですかーーーーっっっ?!」

 あふれた光はミユの体を伝い、時の魔法陣の中を波紋となって広がった。

〝ドポンッッッ!〟

 ミユたちは日時計の中に落下した。


〝ドンッ! ドドドドドドドドドッッッッッッドンッッッッドドンッッッ!〟

 岩に立つミユの手が空を斜めに切ると、一筋の光がメイナグの塔を切断した。崩れた塔が砂塵を巻き上げる。

「よく見るとさー、私ってちょっとかっこ良くない?」

「何言ってんのっ、ホントーにあんたは昔っから無茶苦茶やるんだから。ほらっ、まだ口から光が漏れてるわよ、大丈夫なのっ?」

 岩陰に隠れたミユたちが、少し離れた場所にいるミユたちをそっとのぞいている。

「念の為にみんなにもう一度言っとくけど、一人でもあっちの私たちに見つかったら、全員が元の時間に戻っちゃうからね、気をつけてねっ!」

 時の魔導書に記された禁忌の呪法により、ミユたちは過去に戻った。

「でもどうするのよ、見つからずに財宝の回収なんてできるの?」

「そうですよミユさん、財宝はあの時、魔王に全部持って行かれたんですよ」

「そうだよなー、後で散々探したけど、ガラス玉一つ見つからなかったもんな」

 すると、リノンが現実的な方法を提案した。

「ミユさんがレッドドラゴンのおとりになって走っている間なら、見つからずに少しは回収できるかもしれませんよ。みんな心配してミユさんだけを見ていますからね」

 しかし、ミユは納得しなかった。

「私は全部欲しいの!」

「あんたねー、欲張るとろくなことないわよ」

「お姉ちゃん、死ぬまで働く?」

「みんなっ、頑張りましょう!」


                  〔第32話 メイナグの塔、再び 終〕

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る