第25話 攻略、メイナグの塔

 翌日、朝早くにメイナグの町で馬車を借りたミユたち一行は、砂漠に入って一時間が過ぎた頃に、ようやく遠くにそびえるせた土色の塔を見ることができた。メイナグの塔には侵入者を防ぐための魔法の仕掛けがあるため〝隣の扉〟は使えなかったのだ。

 塔の周りはほとんど砂漠で、岩山を削った巨大な岩がいくつも捨てられている。末広がりになった地上階からまっすぐに伸びた塔の最上階は、あまりに高くかすんで見える。時折り聞こえる地鳴りのような音は、塔の中に巣食うおびただしい数の魔物が原因だろう。

「リノン、あまり近づくと危ないで、そこの大きな岩陰に馬車を停めてくれ」

「ちょっと遠すぎるんじゃないのか……? ここから塔まで歩いたら大変だぞ」

 ブランは馬車に積んである荷物の重さを知っていた。

「いやな、今からしばらくは近づけんのだ……」

 ミユは颯爽と馬車を飛び降りると、目の前の大きな岩にしがみつき登り始めた。

「ちょっとミユっ、あんた何やってんの?」

「みんなそこで待ってて!」

「本当に子供なんだからっ、もうっ……あーー腰が痛い」

 乗り心地の悪い馬車を降りたユリカは、腰をさすりながら心配そうに荷物を見つめた。しかも乗り物酔いをしたようで、気分が悪い。

「サーナ……」

 リノンがセーラー服に仕込んだ杖を伸ばして、ユリカに向けて呪文を唱えた。

「……あ…………」

 ユリカの腰から痛みが消えていく。しかも気分まで楽になっていくのが分かる。

「ありがとう……魔法っていいわね……」

 ユリカは剣と魔法の世界を理解し始めている自分に気づいた。むしろ妹のミユよりオタク気質は強いのだ。押入れに隠してあるBL小説もミユには内緒である。ユリカがこの世界に慣れるのは時間の問題だった。

「ミユさんっ、何か見えますか?」

 ギリーは馬車の荷台から、楽しそうに岩に立つミユを見上げた。

「塔が見えるわよー」

「本当にアレに登る気ですか?」

「登らないわよーっ」

「えっ、だって……」

 ギリーとブラン、そしてユリカは不思議そうに目を合わせた。

「リノン、馬が暴れるやもしれんで、注意しとくれ」

「あっ、そうですね、はい……」

 ミユは目を閉じると、静かに息を吐いて呼吸を整えた。

「……登れ登れ東の空に、る照るの子を追い落とせ、登る登る上弦のおー、ひとおー筋でーー追いーー落とおーーせえーー……」

 ミユの瞳が白く輝く。

「ミユさん、それって〝真昼の月の手毬唄〟ですよね……」

「おい、空が……太陽が欠けていくぞ……」

 ディーが何を警戒しているのか、ブランにもやっと分かりかけてきた。

 月がどこから登ったのか、太陽が隠れると、辺りは夜のように暗くなった。

「フッ……」

 ミユが小さな息を吐くと、月から一筋の光が放たれた。

「えいっ!」

 くうを切ったミユの手に合わせて、光がメイナグの塔を斜めに切断した。

〝ドンッ! ドドドドドドドドドッッッドンッッッドドンッッッ!〟

 崩れ落ちた塔が砂塵を巻き上げる。

〝ゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッッ!!〟

「ミユさーーーーーんっ!! また禁呪じゃないですかーーーっっっ!!!」

「あーーあ、ミユが壊したぞ、国宝を。中の魔物も全滅だなおい……」

「だって一階から上まで登るなんてやってらんないじゃないっ」

「ちょっとミユっ、昨日の日食もあんたがやったのね……」

「危うくあの村が消滅するところでした……」

 リノンはため息をついた。


『ミッ、ミユさんやめてやめてダメですみんな死んじゃいますからっっっ!!!』


「間一髪だったな、リノン」

「ほっほっほっ! ビームを出す手前で止めたから!」

 ミユは慌てているリノンの顔を思い出すと、嬉しそうに笑った。


                  〔第25話 攻略、メイナグの塔 終〕

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