第26話 現れた怪物

「さあみんなーーっ、お宝を拾いに行くわよーーーっ!」

 日食が終わり空が明るくなると、ミユの掛け声であおられた馬車は勢いよく走り出した。崩れた塔はただの土塊つちくれかえったかのようで、いまだ砂煙が漂う砂漠の廃墟となっていた。

「みんな見てっ、本に載ってた通りの光景よっっっ!」

 瓦礫の中に、太陽の光を反射して輝く宝石や金貨が無数に散らばっている。

「さ、3億円……いや5億円……」

 ユリカは目の前に、手の届く夢が落ちていることを確信した。

「ねえミユっ、私、会社辞めてしばらく温泉旅行に行くっ!」

 もちろん、同じく無数に散らばった魔物の死骸などは誰の目にも入らないのだった。

「お姉ちゃんっ、東京デズミーランドっていくらするのっ?!」

「リノン、アは城を建てるでな」

「はい、どうせなら便利な街のそばがいいですね」

「山盛りのチョコレートクッキーと苺にキノコを添えて、えーっとえーっと」

天寿鋼てんじゅこうの盾と鎧に剣をそろえて、えーっとえーっと」

〝ドンッ! ドドンッッッッッ! ドンッドンッッッ!〟

 その時、瓦礫の中から巨大な何かが姿を現した。

「ギュワアッアアッアアァッァァアァアーーーーーーーーーンンッッッッ!」

 大地を揺さぶる咆哮に驚いた馬が、馬車を斜めにいて走り出した。

「リノンっ、止めやっ!」

 ディーの掛け声でリノンが手綱を引くと、馬車は傾いて止まった。

「よしっ、そこの崩れた壁の裏に回しとくれ。アレの気を引きとうないでしばらく隠れる。皆も静かにな」

「あれは……レッドドラゴン……」

 ギリーがかすれた声で呟いた。

「いや、あれは普通のレッドドラゴンではないで。赤に黒が混ざったマダラの翼にねじれたツノなど見たことがない」

「ねえミユ、何あれ……スマホで撮影していいかな……ハハ……」

 ユリカが顔を引きつらせている。

「ギュギュオオオッォオオッォオッォォッォオオーーーーーーンッッッ!!!」

 レッドドラゴンの雄叫びは、誰が聞いても世界の終焉を告げる鐘の音に聞こえるらしい。

「いかんな、棲家すみかを壊された怒りが矛先を探しとるんだ。リノン〝隣の扉〟が使えそうな、平たい壁を探しとくれ」

「はい、お館様」

「あ、あんなのがいたら3億円なんてムリじゃない……海の見える家……温泉旅行……」

 馬車の荷台でユリカが膝を抱えた。

「おいミユっ、さっきの魔法であのドラゴンを倒せないのかっ」

 ブランがミユの顔をのぞくと、白く光る目が笑っていた。再び太陽が欠け始め、空が暗くなった。

「フッ……」

 一筋の光がドラゴンに突き刺さる。

〝ギッッギイイイイイィィィィィィィンンンンッッッッ!!!〟

 しかし、レッドドラゴンのツノに弾かれた光は火花となって散ってしまった。

「フッ……」

 ミユはもう一度息を吐くと、手で空を切った。

「ヤッ!」

 光が波打ち、ドラゴンを襲う。

〝ギギッッギギィィイイイィィギギィィイイイイィィンンンンッッッッ!〟

 しかし、何故か進路を曲げた光はレッドドラゴンのツノに当たり、やはり火花を飛ばすと消えてしまった。

「なんで! 私の魔法が効かない!」

「やはりアレは普通じゃないで。おそらく長い間、塔の魔物を喰らって生きとったんだ、魔力が溜まり過ぎて捩れたツノが、あるじを守っとるんだ」

「それじゃまるで避雷針じゃない!」

 ミユの言うことは正しかった。


                      〔第26話 現れた怪物 終〕

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