第19話 夜の逃飛行

 しばらくすると財宝の雨は降りやんだものの、何もない手を見て三人はため息をつくのだった。

「全部溶岩で溶けちゃったのね……」

「しょーがないです……」

「とっとと帰ろーぜ……」


〝ミユ……ミュウドリィーテ……〟


「えっ? 誰……」

「ギシャアアアアーーーーー……」

 サンダードラゴンがおびえている。

「大穴の底だ! 何かが動いてるぞっ!」

 流れ出る赤黒い溶岩の中で、緑色の塊がうごめいている。

〝ミユ……ミュウドリィーテ……契約を……〟

「あ……あ……」

 ギリーが声を詰まらせた。

〝……不死の力を……得たのだ……我と契約を……〟

 緑色の塊は霧のように空を登ると、山よりも大きな影になり空をおおった。

「えっと……何なの?」

「魔王だ……」

 ブランは正気を保つので精一杯だった。

「魔王? 契約したらどうなるの?」

「ダメです……魂を奪われる……ダメです……」

「ミユ、もう一度月の魔法を使えないか……」

「……月が出てないんじゃね……」

 魔王の影が月を隠していた。

〝さあ、ミユ……契約を……〟

「しょーがないわねー……」

「イグニス!」

〝ボンッ!〟

 ギリーはサンダードラゴンの尻尾に火の玉をぶつけた。

「逃げてえええええっっっ!!」

 我に返ったサンダードラゴンは大きく羽ばたくと、急降下で魔王を振り切った。

「ちょっとギリーちゃんっ、危ない! キャアアアーーーッッッ!!」

「一か八かですっ!」

「そうだ逃げるぞっ!」

「ギシャアアアアアアッッッッ!」

 サンダードラゴンは地面スレスレにまで降下すると、激突する直前で体を起こして水平飛行に切り替えた。

「もっとゆっくり飛んでーーーーーっっっ!」

「しっかりつかまれっ!」

「イグニスッ! イグニスッ!」

 ギリーは後ろに遠ざかる魔王に向けて火の玉を放った。

『さあ、ミュウドリィーテ、契約をしよう』

 王の死体がミユの目の前に立っていた。

「ギシャーーーーーーッッッッッッ!」

 驚いたサンダードラゴンが急上昇をすると、王は笑いながら落下した。

『フハハハハハハハハハッッッッ!』

 さらにスピードをあげたサンダードラゴンは雲を切り裂いた。

「キャアアアアーーッッッッ!」

 ついにミユが手を滑らせてしまった。

「ミユさんっ!」

「ミユっ!」

〝ガシッ!〟

 なんとかサンダードラゴンの尻尾をつかんだミユだったが、下を見ないようにぶら下がるのが精一杯だった。

〝さあミユ……契約を……〟

 空に漂う魔王の影がミユに迫る。

「ギシャアアアアーーーーーーッッッ!」

「あっ! 見つけた!!」

 ギリーがサンダードラゴンの背中を走った。

「おいギリーっ!」

「ギリーちゃん危ない!」

 腹ばいになって手を伸ばすギリー。

「ブランっ、手を貸してっ!」

〝……契約を……〟

 ブランが駆け寄ってギリーの足をつかむと、魔王から逃れようとしたサンダードラゴンが宙返りをした。

「キャッ!」

 ミユはとうとう落下した。

「ミユさん受け取って!!」

 手を力一杯伸ばして、ギリーが投げた〝光のかけら〟をつかんだミユは、にっこりと笑った。

「ありがとうギリーちゃんっ!」

「報酬ですっ!」

 ミユの姿がぼやけて、茜色の空に溶けていく。

「ブランも元気でねーーーっっ! バイバーーーイ……」

 ミユの声が朝日にこだました。

〝ミユ……どこに……行った……………………〟

 魔王の影は、太陽から逃げるように地の底に消えた。

「やったなギリー!」

「うんっ、この子のおかげだよ!」

 サンダードラゴンの尻尾をでるギリー。

「でも、指輪なんてよく見つけたな」

「鱗に挟まって光ってたの。もっとよく探せば金貨とかもあるよ!」

 ギリーとブランを乗せたサンダードラゴンは、輝く雲を抜けるとどこまでも遠く、遠くへと飛んで行った。

「それにしても腹が減ったなー」

「ドラゴンのお肉でも食べたいねっ」

「ギシャーーーーーーッッッ!」


                      〔第19話 夜の逃飛行 終〕

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