第18話 月の雫の子守唄

 ミユたちはボロボロになったドレスを庭園に埋め花で飾ると、サンダードラゴンの背に乗って城を飛び立った。

「ねえミユさん、荊の魔女の最後の頼みって、花に囲まれたお墓だったんですか?」

「そうじゃなくてね、歌を教えてもらったんだけど……」

「もう城と街があんなに小さく見えるぞ」

 サンダードラゴンは雲の上に出ると旋回し始めた。

「すごい……私が百本の箒を使っても、雲の上なんか飛べませんよ」

「そろそろいいかな……」

 ミユは輝く満月を瞳に重ねた。

「……月夜月夜、輝く月夜、光を集めてしずくとせ、雫とせ、雫とぉーーせー……」

「ミユさん、それって〝月の雫の子守唄〟ですよね?」

 ミユの瞳が白く輝く。

「おい見ろ、月が……」

 光を失いはじめた月が姿を消すと、空は暗くなり何も見えなくなった。ドラゴンの羽ばたく音だけが聞こえる。

「フッ……」

 ミユが小さく息を吐くと、月があったはずの空から光の雫がこぼれ落ちた。

「二人ともしっかりつかまって!」

 月の雫はまっすぐに、静かに落下して城に当たった。

〝ドンッッッッッッッッッッ!!!〟

 破裂した雫の光が空を貫いた。

〝ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッッ!!!〟

 爆炎が地上を焼き払い、轟音が空を震わせる。

〝ドドドンッッ!! ドンッ!! ドドドドッッッッッ!!!〟

「ギシャアアァーーーーーーッッ!!」

 サンダードラゴンが木の葉のように吹き飛んだ。

「ミユさんっ! これって禁呪じゃないですかーーっ!」

「なにそれ美味しいのーーっ!?」

「つかまれーーーーーーっ!」

 赤く焼けた夜が輝く。まるで世界が終わりを迎えたようだった。

「……おい見ろ、下は何も無いぞ……」

 城や街は消えて、大きな穴が開いている。深く暗い底から赤黒い溶岩が噴き出した。

「ミユさん、これが最後の頼みだったんですね……」

 震える声でギリーが尋ねた。

「うん、全部消してくれって……城も街も湖も、魔物も全部……」

 満月が現れると空が明るくなった。

〝ザアアアアアアーーーーーッッッ〟

 すると、雨が降り始めた。

「おい変だぞっ、雲ひとつないのに!」

〝バチンッ〟

「痛て!」

 ブランの頭に何かが当たった。

〝カカンッ〟

「おい気をつけろっ! 何か落ちてくるぞっ」

〝カンッ、カンカカンッ〟

「ギシャアアーーーーーッッッッ!」

 ドラゴンの硬い鱗が光を弾くと、ミユの目が輝いた。

「ちょっとこれっ……湖に沈んだ財宝じゃないのっ!?」

 紅やみどりに輝く宝石やネックレス、数えきれないほどの金貨が湖の水と一緒に降ってくる。ミユが一生懸命に手を伸ばすが、どうしても届かない。

「ミユさん危ないっ、当たったら大ケガしますよっ」

「大丈夫だっ、ミユは不死身のはずだっ! 頑張れ!」

〝ガンッ!〟

「痛て! 何で俺ばっかり!」

 欲を出せば手を叩かれる、業の深い雨だった。

「あーーっもったいないわね! 全部穴に吸い込まれていくじゃないの……」

「誰が開けた穴ですか誰が……」

 深い穴の底で溶岩が渦を巻いていた。

〝ドガンッ!〟

「ギシャアアーーーーーンンッッッッッ!」

 冠を被った男がドラゴンの尻尾に当たって落ちていく。

「ちょっと今のっ! 王様よ……」

 バラバラに飛び散った男の死体が溶岩に消えた。

「危ねーなおい……」

「あうあうあう……」


                    〔第18話 月の雫の子守唄 終〕

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